加齢による機能性発声障害

前回のブログでは加齢による声の変化はなぜ起こるのか?について書いてきました。

一般的には声の変化は40〜50歳くらいで起こると言われていますが、歌手や俳優が「だんだん声を出すのが辛くなってきた」と言う年齢は30台前半くらいでも珍しくはありまえん。
特に声が高い、軽やかな女性の多くは30代に差し掛かったくらいで一度、変化を感じ、そこから上手に技術の向上で対応出来れば大した問題にはならないようです。
しかし微妙な声の変化に対応出来ず、更にバランスの悪い発声が癖化してしまうと30代前半でも元は出来ていた発声が出来なくなってしまうと言うケースは少なくない様に感じます。

機能性発声障害?

近年、歌手が機能性発声障害と診断されたと発表する事が増えたように感じますし、皆さんもよく見かけているのではないでしょうか。

機能性発声障害とは、声帯などの発声器官に器質的な障害がないにもかかわらず、声が出しにくい、思うような声が出ないなどの症状が現れる発声障害です。全発声障害の患者さんの約8%を占めています。

機能性発声障害には、次のような種類があります。

過緊張性発声障害:喉の筋肉に力が入りすぎて声帯が締まりすぎることで、声が出しにくい、ガラガラするなどの症状が現れます。
低緊張性発声障害:筋肉の緊張が低すぎて声帯が締まらず、声がかすれる、大きい声が出ないなどの症状が現れます。
心因性失声症:精神的な問題で声帯をうまく動かすことができなくなり、声が出なくなるというものです。

基本的にこれらが挙げられますが、医師が歌手を診断する際には歌唱と言う特殊性や、アーティスト達は元々が特殊な発声を行っている事が多い事を理解しておく必要があると思います。
「本人が以前より出しにくいと言っている、以前出来ていたことが出来ないと言っている。器質的には異常が見られないので機能性発声障害と診断する」と言うケースがとても多いように感じます。

医師や言語聴覚士の研修課程で「歌手の音声障害の治療法やリハビリ法」と言うものは存在しませんので、基本的には彼らの専門分野である話し声を応用するしてリハビリを行う事になります。
これでどの程度、機能性発生障害と診断された歌手のサポートが出来るのかは疑問です。
これから本当に必要になってくる事は医師、言語聴覚士、ボイストレーナーが積極的に意見を交換し、リハビリテーション法やハビリテーション法(Vocologyの目指す所です)を共有し、1人でも多くの才能を守る事だと思います。

音声医学の名医 一色先生の言葉

見て分かりにくい声の病気もたまにあり、医者は「見えないのでよく分かりません、説明がつきません」と言うかわりに「これは機能的なもの、いわば癖(発声法)を直すしかありません」と言います。
機能的と言う言葉が曲者で「はっきりは見えません」という意味で本当に機能的と言う証拠があって言っているのではない事が多いのです。
もっとも、訓練で症状が治れば機能的だったと言えますが。
わからない場合に機能的と言う言葉を使って納得してきた(させてきた)面があります。
機能的と言う言葉はゴミ箱用語だと言った人がいます。
医者には厳しい言葉ですが一面の真理をついています。
「どこも悪いところが見えません」あるいは「見えない病変による音声障害は分かりません」と言う意味と言っていいでしょう。
(声の不思議 一色信彦先生著)

今は亡き一色先生は、機能性発声障害と言う言葉が乱用される事を憂いていたのではないでしょうか。

機能性発声障害の原因を調査した貴重な研究はこちら

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop

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