解剖学的に観る声帯の運動パターンとボイストレーニングへの応用

桜田ヒロキのレッスンではファルセットの練習を多く使いますが、「それってなんで?っ」て思った事はありませんか?
実はそれには科学的、解剖学的な理由があります。

今日は「ファルセットがなんでボイストレーニングに重要なの?」について解説しようと思います!

声帯構造について

声帯は5層の構造によって構成されています。

上皮 epithelium
浅層(粘膜固有層) Superficial lamina propria
中間層(粘膜固有層) Intermediate lamina propria
深層(粘膜固有層) Deep lamina propria
筋肉層  Muscularis

上皮・浅層はゼリー状の粘膜で出来ているそうです。
中間層はエラスチンと言う素材で出来ています。弾力性に優れ、皮膚や血管に含まれているタンパク質です。
深層はコラーゲンで出来ています。靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質で、これまた弾力性に優れ密度が高ければ強い衝撃にも絶える事が出来ます。

「カバー・ボディ」の2層構造と「粘膜・靱帯・筋肉」の3層構造論がある

上記で5種類の組織で構成される声帯の構造を説明しました。
実は研究者の間で発声の種類、靱帯構造によって声帯の層を2つにまとめるカバー・ボディ理論と、声帯の層を3つにまとめる3層構造論があります。

まずカバー・ボディ理論によるグループはこちら。

・カバー
上皮 epithelium
浅層(粘膜固有層)Superficial lamina propria
中間層(粘膜固有層)Intermediate lamina propria

・ボディ
深層(粘膜固有層)Deep lamina propria
筋肉層  Muscularis

声帯の外側と内側を大きく2つに分けています。

3層構造論よるグループはこちら。

・粘膜グループ
上皮 epithelium
浅層(粘膜固有層)Superficial lamina propria

・靭帯グループ
中間層(粘膜固有層)Intermediate lamina propria
深層(粘膜固有層)Deep lamina propria

・筋肉
筋肉層 Muscularis

それぞれの層の持つ役割や、人体構造上どの様に区分けするのか、専門家の間でも意見が分かれており、今のところ「声帯の構造に2つの考え方がある」と言うところまでしか言う事が出来ません。

ボイストレーニングへの応用は?

では、これらの考え方をボイストレーニングに応用する事を考えてみましょう。

歌唱時の発声法はモーダル発声と呼ばれる、声帯の内側に走っている「甲状披裂筋(地声筋)が過度に働かせない、でも適度に使っている」と言う状態が理想とされています。
これは歌う高さの変化にも対応しやすい事、柔らかく甘い声色を作りやすい事から好まれると思われます。

【モーダル発声の図】

対して過緊張発声と言える叫び声に近い発声の場合、図のように声帯の下部ばかりを合わせています、
甲状披裂筋を強く使うと声帯の下部を強く合わせ、靱帯層や粘膜層(図の上部)をほとんど使わずに発声します。
これにより、音程に対して柔軟性、特に高音部の柔軟性が失われると考えられます。

【過緊張発声の図】

では最後にファルセット発声時の声帯を観てみましょう。
甲状披裂筋の働きは極めて穏やかになるため、筋肉部が振動体として働けなくなります。
代わりにエラスチン、コラーゲンと言った弾力性の高い靱帯部(or and 粘膜部)が振動体になる役割を担います。

【ファルセット発声の図】

ファルセット〜地声への発声トレーニングの強み

ここまで読んだ勘が良い方はお気づきかと思います。

ファルセットは甲状披裂筋の働きが穏やか
ファルセットから音程を下降させながら、過剰に甲状披裂筋が働く一歩手前のモーダル発声のところで過緊張発声に到達させる手前で”寸止め”させるイメージでしょうか。
これにより「良い声色」かつ「操作しやすい声」を手に入れるきっかけになると考えます。

実際のトレーニングメニューの1つを動画で観られるようにしてきますので、お試し下さいませ!

カバー・ボディ論と3層構造論の違いにおけるボイストレーニングへの影響は?

あくまで仮説ですが、それぞれの役割を下記の様に予想する事が出来ます。

カバー・ボディ理論の場合
カバーを使った発声→ファルセット or ヘッドボイス
ボディを使った発声→チェストボイス

3層構造論の場合
粘膜グループを使った発声→ ファルセット
靭帯グループ→ ヘッドボイス / ミックスボイス
筋肉グループ→ チェストボイス

これによって歌唱の発声訓練を行うのに当たって大きな変化は、、、発声の種類の伝え方に変化は起こるかも知れませんが、実際のレッスンには大きな影響は考えられません。

でもこの論争のどちらに軍配が上がるのか興味深いところですね!

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop