2025年 11月 の記事一覧

  • 加齢の声への影響とボイストレーニングについて論文を調べてみた 第1話

    【第1話】加齢で声に何が起きるのか 科学論文から読み解く「声が出にくい理由」と、その正しい理解 「昔より声の立ち上がりが遅い」 「高音が出しづらく、伸びが悪い」 「なんとなく息っぽさが増えた気がする」 40代〜60代の歌手、または声を日常的に使う方々がよく口にする変化です。多くの人がこの変化を「衰え」と感じていますが、必ずしもそうとは断言できません。 声帯は歳とともに“構造が変化する”。その変化が機能に影響しているだけで、適切に対処すれば改善可能 と考えています。 この第1話では、「加齢によって声帯で何が起きているのか」を科学論文の記述に基づいて整理し、さらに桜田の臨床経験を加えて理解を深めていきます。 なぜ歳をとると声が出にくくなるのか? 加齢による声の変化は「Presbyphonia(加齢性発声変化)」と呼ばれています。これは病気ではなく、生理的・構造的な変化です。 しかし、それを知らないと以下のような変化を誤解してしまいます。 ・ウォームアップに時間がかかる ・高音が硬く感じる/伸びがなくなる ・息… 続きはこちら≫

  • 音声障害(発声障害)の原因は?データを調べてみた

    声の不調の原因は? ― 医学データで見る発声トラブルの実態 「最近、声が出にくい」「喉の違和感が取れない」「高音が詰まる」 こうした訴えは、歌手だけでなく声優、講師、経営者、コールセンター業務の方など、声を職業として使う多くの人に共通しています。(American Speech-Language-Hearing Association (ASHA)ではこのように声を使う多くの職種をボイスプロフェッショナルと定義しています。) しかし、その原因を正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。風邪や結節など目に見える異常がある場合もありますが、実際には検査で異常が見つからないケースも多く、そうした場合にしばしば診断されるのが機能性発声障害です。 今回は、国内外の臨床データをもとに「声の不調がどこから来るのか」を整理し、声を使う人が知っておくべき実態をまとめます。 声のトラブルは大きく3種類ある 声の不調はすべて同じではありません。大きく分けると次の3つに分類されます。 1. 器質性発声障害(声帯ポリープや結節など、構造的な変化が原因) 2. 機能性発声障害(… 続きはこちら≫

  • ボーカル・ウォーミングアップの科学 第5話:女性歌手と月経周期

    第5話:女性歌手と月経周期——周期で“効くウォームアップ”が変わる理由 「生理前になると高音が詰まる」「声が重くてピッチが当たりづらい」「何となく声の反応が鈍い」 女性歌手であれば、誰もが一度はそんな経験をしているのではないでしょうか。 ウォーミングアップをしても「いつものように声がでない」日がある。それを“体調の波”として片づけてしまうことも多いですが、実際にはそこに明確な生理学的根拠があります。 女性の身体は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の周期的な変動によって、水分バランス、血流、筋の反応速度、そして声帯の粘膜構造までも変化させています。 この章では、月経周期における声の変化を科学的に整理し、それに合わせてウォーミングアップの順序・内容・強度を変えるための具体的なアプローチを提案します。 なぜ「いつものウォームアップ」が効かない日があるのか 多くの女性歌手が感じる“声の波”は、ホルモンによる声帯の変化が主な原因です。Abitbolら(1989〜1999)は、女性歌手の声帯を内視鏡で観察し、月経周期の中で声… 続きはこちら≫

  • ボーカル・ウォーミングアップの科学 4 環境や条件でウォーミングアップの効果が変わる!?

    条件要因と介入順序の最適化——湿度・水分・睡眠・前日負荷・本番環境が“効き方”を変える ウォーミングアップをしても「今日はなかなか声が立ち上がらない」「昨日より時間がかかる」という経験は、どんな歌手にもあるはずです。 同じ練習をしているのに、日によって声の立ち上がり方や響きがまるで違う。多くの人は「体調が悪いのかな」「喉が乾燥しているのかな」と感覚的に理解していますが、実はその背後には明確な生理学的な理由があります。 声帯や発声筋は、毎日同じように働いているわけではありません。 睡眠の質、水分摂取、空気の湿度、前日の発声量、本番環境の温度や音響条件——それらがすべて、声帯の粘弾性や筋の反応性、神経の伝達速度に影響を与えています。 そして、それらの条件が変わると、同じウォームアップでも効き方が変わるのです。 この章では、ウォーミングアップの効果を左右する5つの条件要因と、それに合わせて「どの課題から始めるか」を変える重要性を解説します。 「今日は効かない」その正体 ウォームアップが“効かない日”というのは、声帯が準備段階で望ましい状態に… 続きはこちら≫

  • ボーカル・ウォーミングアップの科学 3 -本当に必要か?

    ウォーミングアップ・クールダウンは本当に必要か?——個体差と最適化 ウォーミングアップとクールダウンは、一般的にボイストレーナーやシンガーに「声の健康に欠かせないもの」として扱われてきました。 しかし近年、音声科学の進展とともに「すべての人に同じ効果があるわけではない」という事が分かってきました。 ウォームアップをしても声が軽くならない、あるいは逆に疲れるという経験を持つ歌手も少なくありません。 第1話ウォーミングアップで何が起こるのか?・第2話ウォーミングアップとクールダウンの科学的メリットで取り上げたように、ウォームアップやクールダウンは確かに多くの研究で有用性が示されています。 しかし実際には、声の種類、体質、年齢、ホルモンバランス、経験によって、その効果が大きく変わることが観察されています。 つまり「正しい方法を学ぶ」だけでは不十分で、「自分の声に合った方法を知る」ことが、より重要になってきているのです。 本章では、ウォーミングアップやクールダウンの効果に見られる個体差、そしてそれを最適化するための方向性を科学的・臨床的に考察します。 … 続きはこちら≫

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