ミックスボイス一覧

  • 加齢と声の関係:歌手にとって避けて通れない課題を考える

    加齢と声の関係:歌手にとって避けて通れない課題(第1回 イントロダクション) はじめに―声は「年齢を映す鏡」 人の身体は年齢とともに変化していきます。顔にしわが増えたり、筋力や持久力が落ちたりするのと同じように、声もまた年齢を重ねるごとに変化します。歌手にとってそれは深刻です。なぜなら、自分の身体そのものが楽器だからです。ピアノやヴァイオリンのように外部の楽器を交換することはできません。変化を受け入れ、その中でどう表現するかを考えることこそ、歌い続けるための道なのです。 歌唱の特性―声を“作りながら”操作法を学ぶ生涯のプロセス 歌唱は、与えられた楽器をただ鳴らす行為ではありません。日々のボイストレーニングを通じて声という楽器を育てながら、その操作方法を学び続ける営みです。もし一生歌い続けるなら、自分の声の変化を観察し、そこから学び、発声の方法を常に更新し続ける必要があります。 このプロセスは一見大変に思えるかもしれません。しかし見方を変えれば、声の変化を楽しみ、学び続けられることが歌手の特権です。年齢を重ねることで深まる声の響きや質感を、新しい表現へと変えていくことは… 続きはこちら≫

  • 科学的に効果的な練習楽曲の選択テクニック

    第4話:モチベーションと学習環境 ― 歌唱を続ける力を育てる 歌唱スキルは、正しい練習方法だけでなく「続けられる力」に大きく左右されます。 そもそもボイストレーニングにおけるタスクや、楽曲そのものの難易度を正確に理解すること自体が難しく、多くの学習者が「この曲は自分に合っているのか」「なぜ歌いにくいのか」と迷います。 こうした状況で、モチベーションが続かない、練習が習慣にならないといった問題は頻繁に起こります。ここでは、心理学と教育学の研究をもとに、歌唱の学習を支えるモチベーションと学習環境の設計について考えます。 1. 内発的動機づけと外発的動機づけ 自己決定理論(Self-Determination Theory, Deci & Ryan, 1985; 2000) によれば、モチベーションには「内発的」と「外発的」があり、長期的な学習継続には「自律性・有能感・関係性」の3つが満たされることが重要です。 歌手にとっては: - 自律性(Autonomy):自分で練習方法や曲を選べる感覚 - 有能感(Competence):小さな成功体験を積み重ねるこ… 続きはこちら≫

  • 練習とフォーカスの科学 ― 効率的なスキル定着

    第2話:練習とフォーカスの科学 ― 効率的なスキル定着 前回は運動学習の基礎、記憶システムとフィードバック法について書きました。 歌手の学習方法を学ぼう!― 基礎理論とフィードバック 歌のトレーニングは、ただ繰り返せば良いというものではありません。 ボイストレーニングの成果は、練習の「構造」をどう設計するか、また学習者の「注意」をどこに向けるかによって大きく左右されます。上達のスピードも定着の度合いも変化するのです。 運動学習の研究からは、歌唱指導やボイストレーナーの実践に直結する知見が多数示されています。 ブロック練習とランダム練習 歌手がフレーズを何度も繰り返す練習は典型的な「ブロック練習」です。対して、異なるフレーズや別の曲を混ぜながら練習するのが「ランダム練習」です。 - Shea & Morgan (1979) は、運動課題の実験で「習得初期にはブロック練習が有利だが、保持や転移にはランダム練習が優位」であることを示しました。 - その後の研究でも、ブロック練習は「短期的なパフォーマンス改善」に強く、ランダム練習は「長期的なスキル保持と応用… 続きはこちら≫

  • オンセット法 – 子音に依存したボイトレから卒業

    歌い始めの「声の立ち上がり=オンセット」は、歌手にとってとても大切な要素です。 桜田は近年、オンセットを表現の演出だけではなく、広い音域で無理のない発声バランスを作るためのトレーニングとして注目しています。 これにより、広い音域を獲得するだけでなく、ステージやレコーディングで求められる「良い声」を作ることにも役立っています。さらに、ハリウッド式ボイトレでよく見られる「子音に依存した発声練習」から脱却するヒントとしても活用しています。 オンセットの種類と特徴 発声教育や音声療法の分野では、オンセットは大きく三つに分類されています。 バランスト・オンセット(Coordinated Onset) 息の流れと声門の動きが同時に起こるタイプです。声門閉鎖率はおおよそ50%前後を目標にすると安定しやすく、その後に続く母音も整いやすいとされています。瞬発性を高めるトレーニングとしても効果的です。 グロータル・オンセット(Glottal Onset) 声門を先に強く閉じてから息を当てるため、スタッカートが固まりやすくなります。筋肉の緊張が強い兆候として現れることもあ… 続きはこちら≫

  • ボーカルフライの効能とリスク 〜ボイストレーナーの視点から〜

    ボーカルフライとは何か 声帯を極端に低い振動数で鳴らし、声門閉鎖時間が長い発声をボーカルフライと呼びます。 特徴としては、低い呼気流、長い閉鎖期、粘膜波の振幅が抑制されることが挙げられます。 言語聴覚士(SLP)の領域では「声門閉鎖促通」の一手法として古くから用いられてきました。 効能:一時的に声門閉鎖を改善する Bolzanら(2008):ボーカルフライ後に粘膜波振幅が改善し、声門閉鎖も向上。 臨床報告(小規模):声帯結節や声帯溝症のリハビリに短時間使用すると、声門閉鎖が一時的に改善。 ケースシリーズ(成人5例):フライ直後に喉頭・鼻咽腔の閉鎖機能が改善。 → 一時的に「閉じ感」を思い出させるトレーニングとして有効とされています。 リスクとデメリット 長時間使用のリスク 30分間連続使用で発声しきい圧(PTP)が0.4 cmH₂O上昇(Svec, 2008)。努力感が増大し、発声負荷が高まる可能性があると報告されています。ただし、このような「30分間連続での実施」は実際のトレーニング現場ではまず行われず、研究的に負荷を観察するための条件と… 続きはこちら≫

  • ライトチェストと誤診しないように〜ボイストレーナーが気をつけるポイント〜

    第1話「本当にライトチェストですか?無理な「閉鎖トレーニング」が生むリスク」では、女性の声にしばしば見られる「後方ギャップ」を誤解したまま、無理に閉じさせるトレーニングを行う危険性についてお話ししました。今回は、その補足として「トレーナーが実際にレッスンで気をつけるべき視点」を、研究データを交えてまとめてみたいと思います。 1. 息っぽさ=閉鎖不足、ではない 後方ギャップは「異常」ではなく、多くの健常女性に自然に存在します。Chhetriら(2014, Journal of Voice)は20〜30歳の健常女性56名を調査し、85.7%で後方ギャップが観察されたと報告しました。しかし、その大多数は感覚的に認識できる息っぽさがないと評価されており、音響指標(基本周波数、声の震えの指標であるジッターやシマー、声の成分とノイズの比率を示すHNR)にも有意な悪化は見られませんでした。 つまり、「息が聞こえる=閉鎖が甘い」という単純な発想は正しくありません。ギャップがあっても声が明瞭であれば、それは生理的に正常な範囲と考えるべきです。 2. 無理な閉鎖はリスクが高い Sve… 続きはこちら≫

  • 本当にライトチェストですか?無理な「閉鎖トレーニング」が生むリスク

    ボイストレーナーの皆さんにとって、生徒の声をどう評価し、どのように改善の方向性を提示するかは非常に重要な役割です。その中で「声門閉鎖の質」をどう扱うかは、発声指導の核心のひとつでしょう。 しかし最近、女性の声における「後方ギャップ」を誤解したままトレーニングを行っている例を耳にします。特に「ライトチェスト」というラベルのもと、閉鎖が弱い=もっと閉じさせるべきだ、という短絡的な指導が増えているようです。 後方ギャップは「異常」ではない 研究では、若年女性の約85%以上において、知覚上「息っぽさ」がないにも関わらず、ストロボスコピーで後方にわずかな開き(後方ギャップ)が確認されています。つまり、女性の後方ギャップは生理的に自然な現象であり、必ずしも音質や健康に悪影響を与えるものではありません。 にもかかわらず、「息が漏れているに違いない」「もっとしっかり閉じないとダメ」という誤った前提から指導を進めると、問題は逆に深刻化します。 後方ギャップのある声門閉鎖 無理な閉鎖トレーニングの弊害 後方ギャップを「埋めよう」とするあまり、強制的に声門を強く… 続きはこちら≫

  • クラシックからベルト唱法への移行とリスク

    クラシック発声を基盤として訓練を積んできた女性歌手が、ミュージカルやポップス(CCM)に挑戦する際に直面する大きな課題のひとつが「ベルト唱法」への適応です。 クラシックの声区操作や共鳴戦略をそのまま用いてベルトを試みると、過剰な声門閉鎖・喉頭挙上・喉周囲筋の緊張を伴い、機能性発声障害(筋緊張性発声障害)に発展する危険性があります。 これは臨床的にもよく見られる問題であり、ジャンル移行が単なる「スタイルの違い」ではなく、生理学的にまったく異なる発声パターンへの再学習を要する複雑な課題であることを示しています。 桜田ヒロキ考察 桜田ヒロキは、クラシックの声区制御をそのまま残してベルトを試みる女性歌手を多く見てきました。 多くの場合、喉頭を無理に押し上げてしまう「代償パターン」が身体に染みつき、喉頭全体の過緊張に繋がります。 特に女性のクラシック発声とベルト発声の違いは、甲状被裂筋(TA)の介入の度合いにあります。 ベルトでは TA の介入によって声門閉鎖率(CQ)が上昇し、声区チェンジの位置自体が高く設定されます。 しかし、TA の関与が弱いまま「地声的な音色」を作… 続きはこちら≫

  • 音域の本当の見方 — VRPが教える“使える声

    ブログ「オーディションでの音域の欄。あなたはどう書く?」が大変好評でしたので、今回はさらに専門性を高めた視点からお話しします。 テーマは「VRP(Voice Range Profile)」 単なる音域が「ここから、ここまで」では見えてこない、本当に使える声の評価方法について解説します。 オーディションの音域欄、本当に意味がある? 多くのオーディション用紙には「音域」の記入欄があります。 例:地声はG3〜E5、裏声は…といった具合です。 しかし、この数字だけでその人の歌唱力や適性を正確に判断できるでしょうか? 音楽ジャンル(クラシックかCCMか)、メロディのパターン、テッシトゥーラ(楽曲中でよく使う音域)、発音や歌詞の母音、声質の方向性など、影響する要素は非常に多岐にわたります。 そのため、単に「地声でどこまで出る」「裏声でどこまで出る」と書くだけでは、本当の音域は見えてきません。 賭けても良いですが、審査員はこの欄を大した指標にならない事も分かっていると思います。(笑) 現実的な対応(少しだけ皮肉を込めて) とはいえ、応募用紙に空欄は許され… 続きはこちら≫

  • 思春期の女性の息っぽい声・声の出しにくさについて

    10代前半の女の子のシンガーや俳優をトレーニングしていると、「息っぽい」「地声が出しにくい」という声の悩みに出会うことがあります。これは本人の努力不足ではなく、思春期特有の生理的変化が関わっているケースが多くあります。 息っぽさの主な原因:後部声門ギャップ(posterior glottal gap) 思春期女子の息っぽさは、声門後部の隙間(mutational chink)が主要因の一つとして古くから報告されています(Gackle, 1991)。 これは、披裂間筋(interarytenoid muscle)の収縮が未熟または弱いことで起こる一過性の閉鎖不全です。 特に10〜14歳頃の女子では、喉頭全体の形態がまだ成長途中であり、声帯の長さや厚みは成人女性より短く・薄い状態です。 そのため、閉鎖動作の精度や持久性が低く、息漏れの多い声質(breathiness)になりやすい傾向があります。 実際、健康な若年女性でも後部声門ギャップが高頻度に見られるという内視鏡研究があり(85%以上で観察)、必ずしも病的ではありませんが、歌唱や長時間の発声では効率低下を招くことが示され… 続きはこちら≫

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