ミックスボイス一覧

  • ビブラートの科学3 – スタイルと表現で使い分けるビブラートの技術

    第3章 スタイルと表現で使い分けるビブラートの技術 前章 ビブラートのトレーニング方法で述べたように、自然なビブラートは身体の協調によって「現れる」ものです。 しかし、音楽表現の中では、その揺れをどのように“使うか”“使わないか”という選択が求められます。 ビブラートは単なるテクニックではなく、スタイルや感情の一部としてコントロールされる表現要素です。 この章では、クラシックとCCM(Contemporary Commercial Music)におけるビブラートの使われ方の違い、フレーズ末尾での変化、ミックスボイスでの安定性などを中心に、ビブラートを意図的にデザインする方法を解説します。 自然な揺れを「制御」する段階へ 前章 ビブラートのトレーニング方法でのトレーニングを経て、ビブラートが自然に発生するようになった段階では、次に「その揺れをどのように使うか」を考える必要があります。 ここで大切なのは、“自然発生したビブラートを止めたり変化させたりする”ことは、無理に揺らすよりも難しいという点です。 僕の師匠の一人、セス・リッグスもエクササ… 続きはこちら≫

  • ビブラートの科学2 – ビブラートのトレーニング方法

    第2章:自然なビブラートを育てる基礎トレーニング ビブラートは無理矢理「作る」ものではなくボイストレーニングや歌唱の中で「育てる」ものです。 声を意識的に揺らそうとすると、喉頭が固まり、声門閉鎖が不安定になってしまいます。 しかし、声区・呼吸・聴覚が協調して動くようになると、身体は自然に周期的な揺れを作り出します。 その揺れこそが、音楽的に美しく、聴き手に安心感を与えるビブラートです。 この章では、ビブラートを安定させるための基本的な練習方法を紹介します。 どれも筋肉を“揺らす”ためのものではなく、協調性とタイミングを整えるためのボイストレーニングです。 発声の自動制御が十分に育つことで、身体は自然と“ちょうどよい周期”で揺れるようになります。 [caption id="attachment_1743" align="aligncenter" width="170"][/caption] 安定したビブラートの前提条件 安定したビブラートの基礎には、声帯をコントロールする二つの主要筋肉、輪状甲状筋(CT)と甲状披裂筋(TA)のバランスが… 続きはこちら≫

  • ビブラートの科学1 – ビブラートと言う物理現象

    ビブラートのメカニズム ― いまだ完全には解明されていない現象です ビブラートは、歌声を豊かにし、音楽的な表現を支える大切な要素です。しかし「なぜ声が周期的に揺れるのか」という問いに対しては、いまだ明確な答えがあるわけではありません。多くの研究者が半世紀以上にわたりこの現象を解析してきましたが、中枢神経によるリズム生成なのか、喉頭筋群の反射的な反応なのか、それとも聴覚フィードバックによる自己調整なのか、結論は一つに定まっていません。 それでも、Sundberg(1987, 2003)をはじめとする多くの音声科学的研究によって、ビブラートの物理的・生理的な特徴についてはかなり明らかになってきました。本稿では、これまでの研究成果を整理しながら、ビブラートのメカニズムについて現在考えられていることを紹介します。 ビブラートの定義と特徴 ビブラートは、音高(基本周波数F0)が周期的に変動する現象として定義されています。Sundberg(1987, 2003)は、ビブラートの特徴を以下の4つの観点から整理しています。 Rate(速度) 1秒間に何回の揺れが起こるかを示します… 続きはこちら≫

  • 空気の流量と声門下圧のバランス ― 効率的なベルティングとは?

    Airflowと声門下圧のバランス ― 効率的で安全なベルティングの鍵 歌声における声量は「力」ではなく「戦略的な設計」で成される 多くの若手歌手やミュージカル俳優が「声量を出せば良い声が出せる」「大きな声=良い声、響く声」と信じています。 しかし、実際に研究を調べたり、桜田のスタジオで観察している限り、この考え方は誤解を生みやすいものです。 ごく一部のプロフェッショナルシンガーでは、爆音に近い声量と美しい響きが両立しています。 しかしそれは、発声システムが非常に緻密に設計され、呼吸圧・声門閉鎖・共鳴が最適化された“例外的な個体”に限られます。 これはいわゆる先天的に”声を持っている”人に限定される可能性が高く、それ以外の歌手はなんらかの方法で、その声に近づけるように努力をする必要があります。 若手シンガーが「大きく歌おう」として声門下圧を上げすぎると、 声帯に過剰な衝突ストレスが生じ、先ず音色が崩壊します。そして短期間で疲労・炎症・嗄声を招くことが少なくありません。 実際に桜田の現場でも、ミュージカル志望の若手俳優が「もっとパワーを」… 続きはこちら≫

  • ”力強いベルティング”発声は本当に、大きな声なの?

    ”力強いベルティング”発声は本当に、大きな声なの? プロ歌手の歌唱をYouTube等で観てコメントに「すごい声量だ!」と書き込みを良く見かけます。 プロフェッショナルを多く担当しているボイストレーナーとしては、「それは歌手本人のパワフルな”声色”にだまされているかもしれません」と思います。 桜田自身でも、その声が実際に声量があるかどうかは、マイクの無い状態で、目の前で歌声を聞かないと実際の音量(音圧/SPL)は分からないのです。 実際、プロフェッショナル歌手の中でも発声音量(SPL)には大きなばらつきがあります。 ライブやレコーディングでは“爆音”に聞こえる歌手でも、実際に生の声を数メートルの距離で聴くと「意外と小さい」と感じるケースは少なくありません。この「知覚される声の強さ」と「実際の音量」は、必ずしも一致しないのです。 声門下圧(Ps)が 1.0〜1.2 kPa(約10〜12 cmH₂O) を超えると、声帯粘膜の柔軟な振動モードが制限されることが報告されています(Titze, 2000; McHenry et al., 2009)。 声門下圧が高すぎ… 続きはこちら≫

  • シリーズ総括! 結局ミックスボイスって何?

    結局ミックスボイスって何?― 声区・音響・筋肉の科学から解説 「ミックスボイス」という言葉は、今やボイストレーニングの現場でもっとも多く使われる用語のひとつです。 しかし実際のところ、ミックスボイスとは何を意味するのか、その定義は人によって大きく異なります。 地声と裏声の“中間”という説明だけでは、歌唱時に起こっている現象のごく一部しか説明できません。 このシリーズでは、声帯振動(source)と声道共鳴(filter)の両面から、ミックスボイスを科学的・生理学的に整理し、歌唱・教育・リハビリテーションの視点から多角的に分析しました。 ここでは全9話の要点を振り返りながら、シリーズ全体の流れをひとつの“発声理論地図”としてまとめます。 第1章:ミックスボイスとは何か? ― 定義と誤解 「地声」「裏声」「ヘッド」「ファルセット」などの言葉が混在することで、学習者の混乱が生じやすくなっています。 ミックスボイスを理解するためには、まず用語の共通認識と言語の擦り合わせが欠かせません。 桜田は現場で「地声」「裏声」といった音の結果をイメージ… 続きはこちら≫

  • 結局ミックスボイスってなに?第9話:ベルティングの実践法

    第9話:Cストラテジーの実践 ― F₂主導のあ母音と音量制御の科学 ベルティング(Cストラテジー)とは何か 現代ポップスやミュージカルのベルティング唱法を科学的に説明しようとしたとき、避けて通れないのがRichard Lissemore氏、論文内のCストラテジーという概念です。これはRichard Lissemore(2019)が提唱したA〜Dストラテジーモデルのうち、F₁(第一フォルマント)がf₀(基本周波数)より下に位置する声道設計を指します。 言い換えると、声帯の基本振動(source)と声道の主共鳴(第1共鳴/filter)が整合しない状態で、代わりにF₂(第二フォルマント)を主たる共鳴源として利用する発声法です。 クラシックの発声がF₁主導で声帯のエネルギーを声道が補助するのに対して、Cストラテジーでは声帯が自律的に振動し、声道はその結果を整える音色デザイン装置として機能します。この違いが、クラシックとCCM(Contemporary Commercial Music)の音響的・生理的な最大の分岐点となります。 つまりCストラテジー(ベルティング… 続きはこちら≫

  • 結局ミックスボイスってなに?第8話:ジャンル別発声ストラテジー

    第8話:ジャンル別音響ストラテジーの実践 ― クラシックとCCMの声道設計 同じ「高音」でも何が違うのか? 高音を出すという行為は、ジャンルを問わず歌唱者の大きな課題です。しかし、クラシックとCCM(Contemporary Commercial Music)では求められる「高音のあり方」が異なります。両者は単なるスタイルの違いではなく、音響的な目的そのものが異なるのです。 クラシックではホール全体に声を響かせる「音響投射」が目的であり、フォルマント(共鳴帯)を倍音に整合させる声道設計が求められます。一方、CCMではマイクの使用が前提となり、音量よりも音色の明瞭さと声色のキャラクターを優先します。そのため、声道の調整方法やフォルマントの使い方がまったく異なる方向に発展してきました。 余談ですが、、、声楽家の女性がミュージカル(CCM)に上手にアジャスト出来ない原因は、既に(ある程度)完成した発声法から離れる事が出来ないため、「大きな声で豊かに出さなくては・・・。」と思い、声道内の音響ストラテジーを変える事が出来ない事が大きな原因となり得ます。音響ストラテジーはクラシ… 続きはこちら≫

  • 結局ミックスボイスってなに?第7話:声道共鳴とレジスター移行

    Richard Lissemoreの研究から見える新しい発声の地図 研究背景と目的 ボイストレーニングの現場では、「地声と裏声の切り替え」「ブレイクをなくす」といった言葉が日常的に使われます。 多くの指導では、これを筋肉バランスの問題として扱い、TA(甲状披裂筋)とCT(輪状甲状筋)の拮抗を中心に説明します。 しかし、Richard Lissemore博士の研究では、この「声区移行」という現象をまったく違う視点から分析しました。 彼が注目したのは、声道共鳴(resonance tuning)。 つまり「喉の中でどう響きを作るか?」が、声区をまたぐときの安定性を決定づけているという視点です。 Lissemoreの研究は、Sundberg(1987)のクラシック発声の音響解析、そしてTitze(2008)のsource–filter coupling理論を基盤にしています。 Titzeは「声帯と声道は独立していない」と述べましたが、Lissemoreはその理論を歌唱実験で実証した最初の一人です。 彼の目的は明確でした。 「優れた歌手(… 続きはこちら≫

  • 結局ミックスボイスってなに?第6話ー音響的ストラテジー

    第6話:音響的ストラテジー ― 声区とフォルマントの関係を科学する 声区移行は筋肉だけで説明できない 多くのボイストレーニングでは、声区(レジスター)の切り替えを「筋肉(TAとCT)の拮抗」で説明する。これは重要だが十分ではない。発声は声帯が作る周期振動(source)と、声道がもつ共鳴(filter)の相互作用で決まり、声区の滑らかな移行=パッサージョは筋生理学的パッサージョ(source passaggio)と音響的パッサージョ(filter passaggio)の一致が成立してはじめて実現する。 現場で「E4で声がひっくり返る」「母音を変えると抜ける」といった訴えが起きるとき、単なる筋力不足ではなく、倍音とフォルマントの不整合が背景にあることが少なくない。(本当に・・・!!!) したがって、ボイストレーナーは筋の指導だけでなく、共鳴設計という音響的観点を併せて扱う必要があります。 Lissemoreの知見:Inter-harmonic Tuning リチャード・リスモアは、特にソプラノの第2パッサージョ(おおむねE5〜G5)に焦点を当て、声道の第1フォルマ… 続きはこちら≫

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