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ツアー中に発声障害に罹患した歌手のリカバリー法は?(第3話)
- 2025.08.17
- ボイストレーナーのお仕事 加齢による声の変化 声の健康法 歌手の発声障害
前回まで、アメリカで実際に起きた発声障害と、そのリカバリーのプロセスを紹介してきました。最終回となる今回は、現場で役立つ具体的なアドバイスをまとめてみます。 インイヤーモニターの設計術 ステージでの歌唱に大きく影響するのが、イヤモニの音作りです。 多くのアーティストは「自分の声をしっかり返して欲しい」とリクエストしますが、逆に声が大きく聞こえすぎると、発声がぶれてしまうこともあります。 実際、桜田のクライアントの中には「声を少し引っ込める設定」に変えたことでリハから本番まで安定するようになった方がいます。 注意したいのは、モニターエンジニアが聴いている音と、歌手本人が聴いている音は同じではないという点です。 アーティスト歌っている時、常に「自分の生声」も聴いており、さらに生声はイヤモニの音に干渉します。 そのため、エンジニアの調整だけで完結せず、本人の感覚とのすり合わせが不可欠です。 「サンドイッチ練習」で声を軽く保つ 本番直前におすすめなのが「サンドイッチ練習」。 SOVT(ストロー発声など)→歌唱→SOVTという流れで行い、軽やかな発声感覚を思い… 続きはこちら≫
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ツアー中に発声障害に罹患したロック歌手のケース(第2話)
前回は、ツアー中に代償的な発声が固定化してしまったロック歌手のケースを紹介しました。 今回は、実際に行われた治療とトレーニングのプロセス、そして本人がどのように感じたのかを見ていきます。 初期の対応 最初の段階で大切なのは「声をすぐにリセットして良い状態に持って行く事」です。 歌手はステージを止めることが難しいため、短時間で効果を感じられる介入が優先されました。 ・喉頭マニュアルセラピー:首や喉周囲の筋肉を直接ほぐし、過剰な緊張を緩める マニュアルセラピーについては詳しくはこちら ・ストロー発声(SOVT):声帯への負担を減らし、効率的な振動を取り戻す ・インイヤーモニターの調整:声を無理に張り上げなくても聞こえる環境を整える 歌手はこの段階で「喉の締め付けが少し和らいだ」「高音が少し楽に出る」と語っており、即効性のある変化に大きな安心感を覚えていました。 中期のトレーニング 次のステップは、代償的な発声を少しずつ置き換える作業です。 レゾナント系発声(響きを強化する):軽く響きを伴った声を思い出す → 言語聴覚士がよく行う「レゾナント… 続きはこちら≫
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ツアー中に発声障害に罹患したロック歌手のケース(第1話)
アーティストは非常に過酷な環境で歌唱を要求されています。 特に売れている時期や、売り出し時期には、一般の仕事に例えるなら「ブラック企業に勤めている状況で歌うことを求められる」ようなものです。 休息が不十分なままステージが続き、さらにメディア露出や移動も重なることで、声は常に限界ギリギリに追い込まれます。 今回は3編に渡って、アメリカで実際に発声障害に陥ったアーティストの診断からリカバリーまでを追ってみようと思います。 ロックバンドのメインボーカル ・全国ツアー中、連日90〜120分のステージ ・サウンドチェック、移動、インタビューで休息不足 ・インイヤーモニターの返りが不十分で、つい声を張ってしまう このような状況は、ツアーでは珍しいことではありません。限られたリハーサル時間や会場ごとの音響の違いが積み重なり、どうしても負担が増してしまうのです。 発症経緯 ・初週のステージから声枯れが出始める ・高音部を無理に押し出すような発声が増える ・苦しい発声を繰り返すうちに「代償的な発声」が固定化 ・声が出にくい → さらに力む → さらに悪化、という悪循… 続きはこちら≫
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声の病気と代償的な発声のケーススタディ
〜手術とリハビリから学ぶ歌手への警鐘〜 声帯ポリープや結節といった病変は、歌手にとって避けて通れないリスクのひとつです。 声を多く使うプロ・ボイス・ユーザーは常に怪我や不調とのリスクと戦っています。 声帯結節などが出来た場合、「手術をすればすぐに声が戻る」と思われがちですが、実際の現場ではそう単純ではありません。 術後に残る「代償的な発声」 桜田がVocologyの中で受けたクラスの中で紹介された症例では、 声帯ポリープを二度手術で取り除いたにもかかわらず、声は依然として低く、息漏れが強く、声量も戻りませんでした。 原因は、長期間にわたり 病変を抱えた声帯に合わせて作られた発声習慣(代償的な発声) です。 ポリープや結節がある状態で歌い続けると、 ・喉の奥で力んで声門を強く押し閉じる。 ・逆に声門を十分に閉じられず、息漏れで補う といったパターンが「その人の声の出し方」として固定されます。 手術で病変を除去しても、この癖が残れば自然な発声には戻れません。 桜田の現場で起きたこと 桜田のクライアントの中にも、代償的な発声の影響で 地声が… 続きはこちら≫
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歌手の発声障害(MTD)と代償発声の落とし穴
歌手が声の不調を感じたとき、その原因を「筋肉の疲労」だと考える方は多いでしょう。確かに筋肉疲労は要因の一つですが、それだけではありません。 過酷な本番や稽古によって“代償的な発声”が習慣化し、筋緊張性発声障害(MTD)に発展するケースが少なくないのです。 代償発声が招く二次性MTD MTDには大きく分けて**一次性(Primary)と二次性(Secondary)**があります。 一次性は明らかな器質的異常がないのに筋緊張が起こるタイプ。 二次性は、声帯や周辺機能の異常・負荷に対して、喉頭や首肩の筋肉を過剰に使って“代償”することで固定化してしまうタイプです。 例えば… ・高音を出すときに喉頭を強く引き上げる ・声量を出そうとして仮声帯を締める ・舌や首周りの筋肉を過剰に動員する こうした代償動作は一時的には音を出せても、結果的に喉周辺の緊張を慢性化させ、声の質や持久力を低下させます。 本番・稽古が引き金になる理由 ・長時間のリハーサルや連日の本番 ・精神的プレッシャーによる無意識の力み ・怪我や一時的な声帯不調をかばうための無理な発声 これ… 続きはこちら≫
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歌手のおかれる環境と医療現場のギャップから生まれる、発声障害(MTD)の難しさ
歌手特有の声の世界 歌手の声は単なる「音声」ではなく、芸術表現そのものです。 発声の細部には、声区の移行、音色の変化、ブレスやビブラートのニュアンスなど、一般の話し声とは大きく異なる複雑な要素が絡み合っています。 しかし、こうした歌唱の特殊性や芸術性を理解することは、必ずしも医療従事者にとって容易ではありません。 MTDの誤診リスク 筋緊張性発声障害(MTD)は、器質的な損傷がないにもかかわらず、声帯周辺の筋肉の過緊張によって声の出しにくさや質の低下を招く機能性音声障害です。 プロ歌手では、特定の音域だけ出しにくい、長時間歌うとコントロールが効かなくなる、といった症状が現れることがあります。 問題は、これらの症状が「歌唱技術の不足」や「使いすぎによる一時的な疲れ」と誤解されやすいこと。 話声だけを基準に診断すると、歌唱中にのみ現れる微妙な筋緊張や声の破綻を見逃してしまい、診断や治療が遅れることも少なくありません。 専門評価の必要性 MTDを正確に診断するには、以下のような専門的アプローチが必要です。 ストロボスコピーによる声帯振動の観察 歌唱課題を含… 続きはこちら≫
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加齢による機能性発声障害
前回のブログでは加齢による声の変化はなぜ起こるのか?について書いてきました。 一般的には声の変化は40〜50歳くらいで起こると言われていますが、歌手や俳優が「だんだん声を出すのが辛くなってきた」と言う年齢は30台前半くらいでも珍しくはありまえん。 特に声が高い、軽やかな女性の多くは30代に差し掛かったくらいで一度、変化を感じ、そこから上手に技術の向上で対応出来れば大した問題にはならないようです。 しかし微妙な声の変化に対応出来ず、更にバランスの悪い発声が癖化してしまうと30代前半でも元は出来ていた発声が出来なくなってしまうと言うケースは少なくない様に感じます。 機能性発声障害? 近年、歌手が機能性発声障害と診断されたと発表する事が増えたように感じますし、皆さんもよく見かけているのではないでしょうか。 機能性発声障害とは、声帯などの発声器官に器質的な障害がないにもかかわらず、声が出しにくい、思うような声が出ないなどの症状が現れる発声障害です。全発声障害の患者さんの約8%を占めています。 機能性発声障害には、次のような種類があります。 過緊張性発声… 続きはこちら≫
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何が原因で声が出しにくくなりますか?
声が出しにくい!?機能性発声障害に陥るプロセスの例を解説では、どの様なケースで発声障害に陥るのかを確認しました。 機能性発声症と診断される方は大きく分けて過緊張性型と低緊張型に分けられます。 こちらの図を観ると左側に近づけば低緊張型。 真ん中が異常がない、技術が高いと言えると思います。 右側に行けば過緊張性型となります。 この記事では、どの様な状況が起きると過緊張性型や低緊張型の機能性発声症が起こりやすいのかを今までの症例を音声学をヒントにまとめました。 それでは異常が出るパターンの解析例をみてみましょう。 どの音域でエラーが起こりやすいのか 低音域〜中音域〜高音域のいずれかでエラーが起きるのか。 全音域でエラーが起きるのか。 過緊張性型も低緊張性型も広い音域でエラーが起こる事が多いですが、過緊張型は発声に技術を要する高音域でのエラーが起こる事がとても多いです。 低緊張性型の方は低音域の声門閉鎖が弱い、高音域での声門閉鎖が強いと言うのはレアなように感じます。 どの母音でエラーが起こりやすいのか 「あ い う え お」の、どの母音でエラーが起… 続きはこちら≫
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声が出しにくい!?機能性発声障害に陥るプロセスの例を解説
前回のブログ「声が出しにくくなった!原因を探る」で紹介した機能性発声障害。 その1つの例として考えられる「誤った発声パターンを学習してしまう」と言う事を紐解くために人間の運動学習について確認してみましょう。 人間の学習プロセスとはどんなもの? 歌や楽器の演奏、演技など技術習得のプロセスを観てみましょう。 ここでは歌唱技術の1つの例として「ビブラート習得」のプロセスで考えてみましょう。 1 無意識的に出来ない ビブラートと言う技術自体を知らない状態です。 技術の存在を知らないので、自分が出来るかどうかもわからない。こういった段階の事を指します。 2 意識的に出来ない これはビブラートと言う存在を知って、ビブラートをかけてみようと試みたが、思うように出来ない。この段階を指します。 3 意識的に出来る この段階ではまだ不安定ではあるものの、意識をすればビブラートをかけられるようになった状態です。 この段階から「出来る」と呼べる段階になっていきます。 4 無意識的に出来る 特に何も考えなくてもビブラートが掛かるようになっている段階です。 よく「… 続きはこちら≫
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声が出しにくくなった!原因を探る
当スタジオには歌が上手になりたいと言う方の他に「以前出ていた歌声や芝居で使っていた声を取り戻したい」と言う目的でボイストレーニングにお越しになる方も多くいらっしゃります。 主な症状はこちらです ・高音が出しづらくなった ・裏声が出しづらくなった ・声が詰まるように感じるようになった ・声がかすれるようになった ・声割れが起こるようになった 等です。 ボイストレーナーがトレーニングを行うのは、病理性がない、もしくは医師が話声を超えるトレーニングを許可した場合になります。 病理性の疑われる場合は、まず医師の診察をお勧めします。 東京都内でしたら音声外来の医師とも繋がりがありますので、ご連絡いただければ紹介させていただきます。 機能性発声障害とは これらの症状は機能性発声障害と呼ばれる事もあり、特にプロフェッショナル・ボイスユーザーを悩ませる症状です。 機能性発声障害は「音声に異常を認めるにもかかわらず、声帯に原因となる器質的異常を認めないもの」と定義されます。 前にも述べていますが、この診断を受けた場合、まずは医師の指示にしたがって治療や言語聴覚… 続きはこちら≫