ボーカルマッサージ一覧

  • 歌手の機能性発声障害 第5話:代償発声と二次的障害

    第5話:代償発声と二次的障害 代償発声(Compensatory vocalization)と言う言葉を知っていますか? 代償発声とは、発声に必要な機能が十分に働かないとき、他の筋肉や方法で無理に声を出そうとすることを指します。一見すると、声が出ていますし、コントールが上手な方であれば、かなり上手な歌唱にもなり得ます。しかし効率が悪く、声帯や周辺筋肉に過度の負担をかけ、長期的には二次的な障害につながります。 本稿では、代償発声のメカニズムと、それが引き起こす二次的障害について整理し、研究とケーススタディをもとに改善の方向性を考えていきます。 1. 代償発声とは何か? 声帯や喉頭の基本的な機能が十分に働かないとき、人は無意識に「別の方法」で声を出そうとします。これが代償発声です。 例えば、声門閉鎖が弱いとき、首や肩の筋肉に力を入れて無理に声を出そうとする。あるいは、声がかすれるのを補おうと息を強く押し出す。これらは短期的には音を出すことができますが、効率が悪く、声帯の酷使につながります。 Koufman & Isaacson(19… 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第4話:歌唱発声と臨床評価の乖離

    第4話:歌唱発声と臨床評価の乖離 「会話は問題ないのに、歌うと声が詰まる」—— 歌手や声優にとって、こうした悩みは決して珍しくありません。 実際、病院で診察を受けた際に「異常なし」と告げられるケースも多いのですが、その一方で本人は歌唱時に深刻なパフォーマンス障害を感じています。ここに、日常会話を前提とする臨床評価と、歌唱という高度なタスクの間に存在する大きな乖離が表れています。 本稿では、このギャップがなぜ生じるのかを整理し、研究知見と臨床の限界、そしてボイストレーニングによるハビリテーションの可能性について考察します。 1. 歌唱の要求と臨床検査のギャップ 臨床現場での検査は、ストロボスコピーや内視鏡を用いて「いー」といった簡単な発声をさせ、その際の声帯の周期性や閉鎖の程度を観察するのが一般的です。これは日常会話に必要な最低限の声の機能を評価するには十分ですが、歌唱のような高度な発声タスクを反映できているとは言いがたいでしょう。 歌唱には、以下のような特徴的な要求があります。 - メロディの変化に沿った複雑な声帯運動 - … 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第3話:機能性発声障害(MTD)の理解と歌手への影響

    第3話:機能性発声障害(MTD)の理解と歌手への影響 「声が出にくい」「高音になると急に詰まる」 歌手や声優など、声を職業にしている人の間で頻繁に耳にする悩みです。 声帯結節やポリープのように器質的な変化があれば診断は比較的容易ですが、実際には検査上は異常が見られないケースも多く存在します。 日本ではこのようなケースに「機能性発声障害」という診断名がつけられるのが一般的です。 国際的には「Muscle Tension Dysphonia(MTD, 筋緊張性発声障害)」と呼ばれます。 本稿では、機能性発声障害について定義や分類を整理しつつ、歌手や声優にとってなぜ大きな壁になるのかを考察していきます。 さらに、治療やボイストレーニングによるハビリテーションの可能性についても研究を交えて解説します。 1. 機能性発声障害(MTD)の定義と分類 機能性発声障害とは、声帯に器質的な異常がないにもかかわらず、声を出す機能に問題が生じる状態を指します。国際的にはMuscle Tension Dysphonia(MTD)がその代表であり、特に声を酷使する職業(… 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第2話:歌手の発声障害ってなぜ治療やリハビリが難しい?

    歌手と発声障害の診断が難しい理由 「病院に行ったけれど“異常なし”と言われた」—— 歌手や声を専門的に使う人たちの間で、こうした声は少なくありません。 実際、歌手の多くは日常会話ではほとんど不自由を感じないにもかかわらず、歌唱を始めた途端に息漏れや過緊張、声の途切れといった問題が露わになります。 ところが、医師や言語聴覚士の臨床検査は「話声」を前提としていることが多いため、こうした症状は「検査上は異常なし」とされてしまうのです。 本稿では、なぜ歌手の発声障害が診断しにくいのか、その背景を整理し、研究知見と実例を交えながら解説していきます。歌手本人やボイストレーナー、そして医療関係者にとっても重要な視点となるでしょう。 [caption id="attachment_2077" align="aligncenter" width="300"] [/caption] 1. 芸術性を理解できない医療的評価の限界 発声障害の診断は、耳鼻咽喉科医や言語聴覚士がストロボスコピーや内視鏡、音響解析を用いて行います。 ところが、その評価基準はあくまで「日常… 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第1話:発声障害とは?歌手が知るべき基礎知識

    発声障害とは?歌手が知るべき基礎知識 「声が詰まりやすい」 「高い声が出しづらい」 こうした悩みを抱えてレッスンにいらっしゃる方は少なくありません。 通常の話し声ではほとんど気にならなくても、歌い出した途端に息漏れや過緊張が現れる。 歌手にとっては声帯の内転(閉鎖)クオリティ(強すぎず弱すぎず)が非常に重要であり、極端な音域や強弱・音色操作といった高度な歌唱環境下では、わずかな乱れが即座に「発声不可能」な状態を引き起こすこともあります。 その背景に潜んでいるのが「発声障害」です。 本記事では、その基本を整理しつつ、歌手ならではの視点から理解を深めていきます。 発声障害の定義と大分類 発声障害(voice disorders)とは、声を出すための仕組みが適切に働かず、本人や周囲が「声が異常だ」と感じる状態を指します。 大きくは以下の3つに分類されます。 1. 器質性発声障害(Organic Voice Disorders) 声帯結節、ポリープ、声帯麻痺、萎縮など、解剖学的・神経学的な異常が原因。 … 続きはこちら≫

  • 舌骨とボーカルマッサージ – 舌骨サーフ(Hyoid Surf)

    はじめに 歌っているときに「喉が詰まる」「高音で引っかかる」「声が重たい」と感じることはありませんか。 その原因のひとつが、舌骨周囲の筋群に生じる過緊張です。 舌骨は小さな骨ですが、顎・舌・喉頭をつなぐ重要な役割を持っています。ここに力みが生じると発声全体に大きな影響が広がり、機能性発声障害(MTD)とも関連して症状が強くなることがあります。 この繊細な部位を解放するための手技のひとつが、舌骨サーフ(Hyoid Surf)です。 舌骨とは? 舌骨は首の中央付近、下顎のすぐ下に位置するU字型の小さな骨です。 人体で唯一、他の骨と直接関節を持たず、筋肉と靭帯だけで支えられています。 舌を動かす舌骨上筋群(顎舌骨筋・顎二腹筋・舌骨舌筋など) 喉頭を支える舌骨下筋群(胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋・甲状舌骨筋など) これらの筋が舌骨に付着し、舌・顎・喉頭をつなぐ要の役割を果たしています。 舌骨周囲筋が固まるリスク 舌骨周囲の筋肉が固まると、歌手にとって深刻な問題が起こります。 ・喉頭が高い位置に固定され、高音が詰まりやすくな… 続きはこちら≫

  • 歌手に多い「機能性発声障害(筋緊張性発声障害)」とは?

    まずは定義から 機能性発声障害(筋緊張性発声障害)は、声帯やその周囲に器質的な異常がないのに、喉頭内外の筋肉が過度に緊張し、発声が非効率になる機能性音声障害です。 特徴的な所見としては、喉頭の挙上、仮声帯の過剰な内転、喉頭の前後圧縮などが見られます。 歌手の場合、これに伴って ・声が出しづらい ・息漏れやかすれ ・声が不安定になる ・レンジの一部が使えなくなる といった症状が出ます。 歌手に発声障害が多い理由 メタアナリシスによると、歌手の自己申告ベースで約46%が何らかの音声トラブルを経験しており、その主要な診断の一つが発声障害(MTD)です。 ジャンルを問わず起こり得ますが、特に高負荷の歌唱(ミュージカル、ポップスなど)や、長時間のリハーサル・公演スケジュールを抱える歌手でリスクが高まります。 誤診と見落としの課題 MTDは器質的な病変がないため、一般的な耳鼻咽喉科の診察(話声だけの評価)では見逃されることがあります。 専門施設でのストロボスコピーや(声帯の動きをスローで観察できる機器)歌唱課題を含む評価によって初めて診断されるケースも少なく… 続きはこちら≫

  • サーカム・ラリンジャル― 声を過緊張から解放するための科学と実践

    はじめに 歌手や歌手志望の方にとって「声の出しにくさ」や「喉の詰まり感」は日常的な課題かもしれません。 高音に差し掛かると喉が固まる、長時間の稽古後に声が重たくなる、発声時に無意識に力んでしまう…。 こうした状態の背景には、機能性発声障害(筋緊張性発声障害) や、代償的な発声パターンの習慣化が隠れていることがあります。 この問題に対して注目されているのが、サーカム・ラリンジャル・マッサージ(Circumlaryngeal Massage, CLM)、通称ボーカルマッサージです。 サーカム・ラリンジャル・マッサージとは? サーカム・ラリンジャル・マッサージは、喉頭や舌骨周囲の外喉頭筋を手技で緩める方法です。 Aronson(1990)によって臨床的に整理され、その後「機能性発声障害(筋緊張性発声障害)」の治療や、歌手の声のコンディショニングに用いられるようになりました。 主な目的 ・甲状舌骨筋や舌骨上筋群の過緊張を緩和する ・喉頭の高位化や固定化を解除し、可動性を回復させる ・代償的に作られた発声習慣をリセットする ・発声訓練の前準備として、神経‐筋ネ… 続きはこちら≫

  • ボーカルマッサージと発声訓練 ― 職業歌手に必要な“緊張解除”と“運動学習”の二段構え

    はじめに 歌手にとって「声の調子が悪い」「高音が引っかかる」「長時間歌うと喉が重く感じる」といった感覚は、決して珍しいものではありません。 その背景には、単なる疲労だけではなく、機能性発声障害(筋緊張性発声障害) や、無意識に身につけてしまった 代償的な発声パターンが隠れている事があります。 リハーサルや公演を重ねるほどに、喉周りの筋肉は「歌うための支え」ではなく「過剰な緊張」を積み上げてしまうことがあります。 ここで注目されているのが、ボーカルマッサージと発声訓練を組み合わせた二段構えのアプローチです。 1. ボーカルマッサージがもたらす効果と限界 ボーカルマッサージ=即効性がある、これは多くの歌手が体感するところです。 研究でも、ボーカルマッサージを施した直後にジッター(音の高さの震え)やシマー(音量振幅の不安定性)が減少。 HNR(ハーモニック・ノイズ比)が改善(よりツヤのある声になる) といった音響的改善が確認されています(Rezaee Rad et al., 2018)。 しかし重要なのは、基本周波数(F0=話声位)は変わらない という事実です… 続きはこちら≫

  • 変声期を迎えた少年歌手の発声障害の例

    子役の変声期に直面する現場から 変声期を迎えるミュージカルの子役のトレーニングを担当することがあります。 子役はストーリー上とても重要な役を任されることが多く、舞台では高い歌唱力が求められます。 しかし、思春期にあたる彼らは精神的にも不安定になりやすく、本人も親御さんも非常に苦労されます。 男子の変声期では、しばしば「この美しい高音を残したい」と本人・親御さんの双方が強く望みます。 しかし実際には変声期は子供の声から大人の声へ切り替わる時期であり、本来であれば低音化して成熟した声質に適応していく必要があります。 ところが「少年の声を残したい」という願望のままトレーニングを続けると、かえって発声障害に陥ることがあります。 [caption id="attachment_1743" align="aligncenter" width="170"][/caption] 以下に紹介するのは、アメリカで報告された事例のひとつです。 ケーススタディ 背景  ・変声期前からボーイソプラノとして活動し、裏声(falsetto/頭声)を多用していた。  ・変声期に入り… 続きはこちら≫

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