声の健康法一覧

  • ボーカル・ウォーミングアップの科学 4 環境や条件でウォーミングアップの効果が変わる!?

    条件要因と介入順序の最適化——湿度・水分・睡眠・前日負荷・本番環境が“効き方”を変える ウォーミングアップをしても「今日はなかなか声が立ち上がらない」「昨日より時間がかかる」という経験は、どんな歌手にもあるはずです。 同じ練習をしているのに、日によって声の立ち上がり方や響きがまるで違う。多くの人は「体調が悪いのかな」「喉が乾燥しているのかな」と感覚的に理解していますが、実はその背後には明確な生理学的な理由があります。 声帯や発声筋は、毎日同じように働いているわけではありません。 睡眠の質、水分摂取、空気の湿度、前日の発声量、本番環境の温度や音響条件——それらがすべて、声帯の粘弾性や筋の反応性、神経の伝達速度に影響を与えています。 そして、それらの条件が変わると、同じウォームアップでも効き方が変わるのです。 この章では、ウォーミングアップの効果を左右する5つの条件要因と、それに合わせて「どの課題から始めるか」を変える重要性を解説します。 「今日は効かない」その正体 ウォームアップが“効かない日”というのは、声帯が準備段階で望ましい状態に… 続きはこちら≫

  • ボーカル・ウォーミングアップの科学 3 -本当に必要か?

    ウォーミングアップ・クールダウンは本当に必要か?——個体差と最適化 ウォーミングアップとクールダウンは、一般的にボイストレーナーやシンガーに「声の健康に欠かせないもの」として扱われてきました。 しかし近年、音声科学の進展とともに「すべての人に同じ効果があるわけではない」という事が分かってきました。 ウォームアップをしても声が軽くならない、あるいは逆に疲れるという経験を持つ歌手も少なくありません。 第1話ウォーミングアップで何が起こるのか?・第2話ウォーミングアップとクールダウンの科学的メリットで取り上げたように、ウォームアップやクールダウンは確かに多くの研究で有用性が示されています。 しかし実際には、声の種類、体質、年齢、ホルモンバランス、経験によって、その効果が大きく変わることが観察されています。 つまり「正しい方法を学ぶ」だけでは不十分で、「自分の声に合った方法を知る」ことが、より重要になってきているのです。 本章では、ウォーミングアップやクールダウンの効果に見られる個体差、そしてそれを最適化するための方向性を科学的・臨床的に考察します。 … 続きはこちら≫

  • ボーカル・ウォーミングアップの科学 2 -クールダウンとは?

    第2話:ウォーミングアップとクールダウンの科学的メリット 声を「温める」ことと「冷ます」ことの両輪 ウォーミングアップは歌うための準備。 一方、クールダウンは歌った後の回復のための発声です。身体の筋肉と同様に、声の使用後にも「ゆるやかに収束させるプロセス」が必要であることが、近年の音声科学で明らかになってきました。 声は筋活動・血流・粘膜の協調によって成立する精密な運動です。それゆえ、過剰な使用の後に“何もせず止める”ことは、激しい運動後にストレッチを省くことと同じくらいリスクがある。声帯粘膜や外喉頭筋群が緊張したまま睡眠に入ると、翌朝の発声立ち上がりが重くなり、音域や響きに影響を及ぼします。 本章では、クールダウンで実際に起こる生理的変化、研究による効果、そして桜田が現場で観察してきた回復プロセスを紹介します。 さらに後半では、英国Voice Care Centreなどでも注目されるサーカムラリンジャル(ボーカルマッサージ)を、クールダウンと並ぶ回復手法として位置づけ、科学的根拠と実践的意義を考察します。 クールダウンとは何か? その… 続きはこちら≫

  • ボーカル・ウォーミングアップの科学 1 -何が起こるのか?

    第1話:ウォーミングアップで何が起こるのか? あなたは歌う時にウォーミングアップをしますか? 桜田ヒロキ個人的には20代の頃から、ウォーミングアップが必須でした。ウォーミングアップなしでは高い声も詰まりますし、ピッチが悪くなります。なので、個人的には若い頃から今までウォーミングアップは必須です。 中には全くウォーミングアップを必要としないシンガーもいます。ただ、傾向としては多くのシンガーが年齢を重ねる毎に徐々にウォーミングアップの重要性に気づいていくようです。 ウォーミングアップを終えた時、実際に喉頭や声帯では何が起きているのでしょうか? 多くの歌手は「声が軽くなる」「高音が出やすくなる」「響きが整う」と感じますが、それがどのような生理的変化によって起こるのかを理解している人は多くありません。 本稿では、ウォーミングアップの科学的背景を整理し、研究で示されている生理変化と音響的効果を解説します。 さらに、桜田が現場で観察してきた「声の立ち上がり」「共鳴位置」「筋の再キャリブレーション(調整)」に関する臨床的視点も交えながら、歌手にとってウォームアップが… 続きはこちら≫

  • ビブラートの科学4 – ビブラートの消失と再獲得

    第3章:ビブラートの消失と再獲得 ― 声の健康とリハビリの視点から ビブラートは、声が健康に働いているかどうかを示す「指標」のひとつといえます。 第1章「ビブラートと言う物理現象」ではそのメカニズムを、第2章「ビブラートのトレーニング方法」では安定した揺れを育てるトレーニング法を取り上げました。 そしてこの第3章では、ビブラートが「失われる」とき、声の内部で何が起こっているのかを整理し、その再獲得の道筋を探ります。 多くの歌手が「ビブラートがかからなくなった」「以前のような自然な揺れが戻らない」と感じるとき、そこには単純な技術的要因だけでなく、喉頭の筋緊張や粘膜の変化、さらには神経系の働きが関係していることがあります。 このような変化は、短期的な声の酷使や炎症から、慢性的な過緊張、加齢にともなう筋萎縮まで、非常に幅広い要因によって起こります。 ビブラートが生まれる仕組みを「反射」や「自動調整」として捉えると、その消失は「声の自律的な揺れ」が止まった状態だと考えることができます。 言い換えると、声帯が正しいバランスで動くためのフィードバック・ループが… 続きはこちら≫

  • ビブラートの科学3 – スタイルと表現で使い分けるビブラートの技術

    第3章 スタイルと表現で使い分けるビブラートの技術 前章 ビブラートのトレーニング方法で述べたように、自然なビブラートは身体の協調によって「現れる」ものです。 しかし、音楽表現の中では、その揺れをどのように“使うか”“使わないか”という選択が求められます。 ビブラートは単なるテクニックではなく、スタイルや感情の一部としてコントロールされる表現要素です。 この章では、クラシックとCCM(Contemporary Commercial Music)におけるビブラートの使われ方の違い、フレーズ末尾での変化、ミックスボイスでの安定性などを中心に、ビブラートを意図的にデザインする方法を解説します。 自然な揺れを「制御」する段階へ 前章 ビブラートのトレーニング方法でのトレーニングを経て、ビブラートが自然に発生するようになった段階では、次に「その揺れをどのように使うか」を考える必要があります。 ここで大切なのは、“自然発生したビブラートを止めたり変化させたりする”ことは、無理に揺らすよりも難しいという点です。 僕の師匠の一人、セス・リッグスもエクササ… 続きはこちら≫

  • ビブラートの科学2 – ビブラートのトレーニング方法

    第2章:自然なビブラートを育てる基礎トレーニング ビブラートは無理矢理「作る」ものではなくボイストレーニングや歌唱の中で「育てる」ものです。 声を意識的に揺らそうとすると、喉頭が固まり、声門閉鎖が不安定になってしまいます。 しかし、声区・呼吸・聴覚が協調して動くようになると、身体は自然に周期的な揺れを作り出します。 その揺れこそが、音楽的に美しく、聴き手に安心感を与えるビブラートです。 この章では、ビブラートを安定させるための基本的な練習方法を紹介します。 どれも筋肉を“揺らす”ためのものではなく、協調性とタイミングを整えるためのボイストレーニングです。 発声の自動制御が十分に育つことで、身体は自然と“ちょうどよい周期”で揺れるようになります。 [caption id="attachment_1743" align="aligncenter" width="170"][/caption] 安定したビブラートの前提条件 安定したビブラートの基礎には、声帯をコントロールする二つの主要筋肉、輪状甲状筋(CT)と甲状披裂筋(TA)のバランスが… 続きはこちら≫

  • ビブラートの科学1 – ビブラートと言う物理現象

    ビブラートのメカニズム ― いまだ完全には解明されていない現象です ビブラートは、歌声を豊かにし、音楽的な表現を支える大切な要素です。しかし「なぜ声が周期的に揺れるのか」という問いに対しては、いまだ明確な答えがあるわけではありません。多くの研究者が半世紀以上にわたりこの現象を解析してきましたが、中枢神経によるリズム生成なのか、喉頭筋群の反射的な反応なのか、それとも聴覚フィードバックによる自己調整なのか、結論は一つに定まっていません。 それでも、Sundberg(1987, 2003)をはじめとする多くの音声科学的研究によって、ビブラートの物理的・生理的な特徴についてはかなり明らかになってきました。本稿では、これまでの研究成果を整理しながら、ビブラートのメカニズムについて現在考えられていることを紹介します。 ビブラートの定義と特徴 ビブラートは、音高(基本周波数F0)が周期的に変動する現象として定義されています。Sundberg(1987, 2003)は、ビブラートの特徴を以下の4つの観点から整理しています。 Rate(速度) 1秒間に何回の揺れが起こるかを示します… 続きはこちら≫

  • 空気の流量と声門下圧のバランス ― 効率的なベルティングとは?

    Airflowと声門下圧のバランス ― 効率的で安全なベルティングの鍵 歌声における声量は「力」ではなく「戦略的な設計」で成される 多くの若手歌手やミュージカル俳優が「声量を出せば良い声が出せる」「大きな声=良い声、響く声」と信じています。 しかし、実際に研究を調べたり、桜田のスタジオで観察している限り、この考え方は誤解を生みやすいものです。 ごく一部のプロフェッショナルシンガーでは、爆音に近い声量と美しい響きが両立しています。 しかしそれは、発声システムが非常に緻密に設計され、呼吸圧・声門閉鎖・共鳴が最適化された“例外的な個体”に限られます。 これはいわゆる先天的に”声を持っている”人に限定される可能性が高く、それ以外の歌手はなんらかの方法で、その声に近づけるように努力をする必要があります。 若手シンガーが「大きく歌おう」として声門下圧を上げすぎると、 声帯に過剰な衝突ストレスが生じ、先ず音色が崩壊します。そして短期間で疲労・炎症・嗄声を招くことが少なくありません。 実際に桜田の現場でも、ミュージカル志望の若手俳優が「もっとパワーを」… 続きはこちら≫

  • ”力強いベルティング”発声は本当に、大きな声なの?

    ”力強いベルティング”発声は本当に、大きな声なの? プロ歌手の歌唱をYouTube等で観てコメントに「すごい声量だ!」と書き込みを良く見かけます。 プロフェッショナルを多く担当しているボイストレーナーとしては、「それは歌手本人のパワフルな”声色”にだまされているかもしれません」と思います。 桜田自身でも、その声が実際に声量があるかどうかは、マイクの無い状態で、目の前で歌声を聞かないと実際の音量(音圧/SPL)は分からないのです。 実際、プロフェッショナル歌手の中でも発声音量(SPL)には大きなばらつきがあります。 ライブやレコーディングでは“爆音”に聞こえる歌手でも、実際に生の声を数メートルの距離で聴くと「意外と小さい」と感じるケースは少なくありません。この「知覚される声の強さ」と「実際の音量」は、必ずしも一致しないのです。 声門下圧(Ps)が 1.0〜1.2 kPa(約10〜12 cmH₂O) を超えると、声帯粘膜の柔軟な振動モードが制限されることが報告されています(Titze, 2000; McHenry et al., 2009)。 声門下圧が高すぎ… 続きはこちら≫

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