歌手のおかれる環境と医療現場のギャップから生まれる、機能性発声障害(MTD)の難しさ

歌手特有の声の世界

歌手の声は単なる「音声」ではなく、芸術表現そのものです。
発声の細部には、声区の移行、音色の変化、ブレスやビブラートのニュアンスなど、一般の話し声とは大きく異なる複雑な要素が絡み合っています。
しかし、こうした歌唱の特殊性や芸術性を理解することは、必ずしも医療従事者にとって容易ではありません。

MTDの誤診リスク

機能性発声障害(筋緊張性発声障害)は、器質的な損傷がないにもかかわらず、声帯周辺の筋肉の過緊張によって声の出しにくさや質の低下を招く機能性音声障害です。
プロ歌手では、特定の音域だけ出しにくい、長時間歌うとコントロールが効かなくなる、といった症状が現れることがあります。
問題は、これらの症状が「歌唱技術の不足」や「使いすぎによる一時的な疲れ」と誤解されやすいこと。
話声だけを基準に診断すると、歌唱中にのみ現れる微妙な筋緊張や声の破綻を見逃してしまい、診断や治療が遅れることも少なくありません。

専門評価の必要性

MTDを正確に診断するには、以下のような専門的アプローチが必要です。

ストロボスコピーによる声帯振動の観察
歌唱課題を含む発声評価
音響分析と発声感覚のヒアリング

これらは通常の耳鼻咽喉科診察では省略されることが多く、特に歌手の場合は評価の質が診断精度に直結します。

桜田ヒロキのサポート活動

桜田ヒロキは長年プロ歌手や俳優の発声指導に携わってきました。その中で痛感しているのは、適切な医師とつながることの重要性です。
症状がある歌手に対し、私は信頼できる声専門医への紹介や、医療スタッフへの情報共有を積極的に行っています。これにより、医療側も歌唱特有の発声ニーズを理解しやすくなり、歌手本人も安心して治療やリハビリに取り組める環境が整います。

まとめ

歌手の声は芸術的要素が強く、医療現場での理解が難しい場合がある
MTDは誤診・見逃しのリスクが高く、早期発見には歌唱を含む専門評価が不可欠
信頼できる医師との連携と情報共有は、歌手が発声障害から回復するための大きな力になる
声は歌手にとってキャリアの命。
早期の正しい診断と、歌手の声を理解できる医療チームとの出会いが、回復の第一歩です。

歌声の機能回復を目的としたボイストレーニング・発声調整はこちらをどうぞ
声が出しにくくなった!原因を探る
声が出しにくい!?機能性発声障害に陥るプロセスの例を解説
何が原因で声が出しにくくなりますか?

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
米国Speech Level Singingにてアジア圏最高位レベル3.5(最高レベル5)を取得。2008〜2013年は教育管理ディレクターとして北アジアを統括。日本人唯一のインストラクターとしてデイブ・ストラウド氏(元SLS CEO)主宰のロサンゼルス合宿に抜擢。韓国ソウルやプサンでもセミナーを開催し、国際的に活動。
科学的根拠を重視し、英国Voice Care Centreでボーカルマッサージライセンスを取得。2022–2024年にニューヨーク大学Certificate in Vocology修了、Vocologistの資格を取得。
日本では「ハリウッド式ボイストレーニング」を提唱。科学と現場経験を融合させた独自メソッド。年間2,500回以上、延べ40,000回超のレッスン実績。指導した声は2,000名以上。
倖田來未、EXILE TRIBE、w-inds.などの全国ツアー帯同。舞台『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』主演・岩本照のトレーニング担当。
歌手の発声障害からの復帰支援。医療専門家との連携による、健康と芸術性を両立させるトレーニング。

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