ミックスボイス一覧

  • ビブラートの科学2 – ビブラートのトレーニング方法

    第2章:自然なビブラートを育てる基礎トレーニング ビブラートは無理矢理「作る」ものではなくボイストレーニングや歌唱の中で「育てる」ものです。 声を意識的に揺らそうとすると、喉頭が固まり、声門閉鎖が不安定になってしまいます。 しかし、声区・呼吸・聴覚が協調して動くようになると、身体は自然に周期的な揺れを作り出します。 その揺れこそが、音楽的に美しく、聴き手に安心感を与えるビブラートです。 この章では、ビブラートを安定させるための基本的な練習方法を紹介します。 どれも筋肉を“揺らす”ためのものではなく、協調性とタイミングを整えるためのボイストレーニングです。 発声の自動制御が十分に育つことで、身体は自然と“ちょうどよい周期”で揺れるようになります。 [caption id="attachment_1743" align="aligncenter" width="170"][/caption] 安定したビブラートの前提条件 安定したビブラートの基礎には、声帯をコントロールする二つの主要筋肉、輪状甲状筋(CT)と甲状披裂筋(TA)のバランスが… 続きはこちら≫

  • 空気の流量と声門下圧のバランス ― 効率的なベルティングとは?

    Airflowと声門下圧のバランス ― 効率的で安全なベルティングの鍵 歌声における声量は「力」ではなく「戦略的な設計」で成される 多くの若手歌手やミュージカル俳優が「声量を出せば良い声が出せる」「大きな声=良い声、響く声」と信じています。 しかし、実際に研究を調べたり、桜田のスタジオで観察している限り、この考え方は誤解を生みやすいものです。 ごく一部のプロフェッショナルシンガーでは、爆音に近い声量と美しい響きが両立しています。 しかしそれは、発声システムが非常に緻密に設計され、呼吸圧・声門閉鎖・共鳴が最適化された“例外的な個体”に限られます。 これはいわゆる先天的に”声を持っている”人に限定される可能性が高く、それ以外の歌手はなんらかの方法で、その声に近づけるように努力をする必要があります。 若手シンガーが「大きく歌おう」として声門下圧を上げすぎると、 声帯に過剰な衝突ストレスが生じ、先ず音色が崩壊します。そして短期間で疲労・炎症・嗄声を招くことが少なくありません。 実際に桜田の現場でも、ミュージカル志望の若手俳優が「もっとパワーを」… 続きはこちら≫

  • シリーズ総括! 結局ミックスボイスって何?

    結局ミックスボイスって何?― 声区・音響・筋肉の科学から解説 「ミックスボイス」という言葉は、今やボイストレーニングの現場でもっとも多く使われる用語のひとつです。 しかし実際のところ、ミックスボイスとは何を意味するのか、その定義は人によって大きく異なります。 地声と裏声の“中間”という説明だけでは、歌唱時に起こっている現象のごく一部しか説明できません。 このシリーズでは、声帯振動(source)と声道共鳴(filter)の両面から、ミックスボイスを科学的・生理学的に整理し、歌唱・教育・リハビリテーションの視点から多角的に分析しました。 ここでは全9話の要点を振り返りながら、シリーズ全体の流れをひとつの“発声理論地図”としてまとめます。 第1章:ミックスボイスとは何か? ― 定義と誤解 「地声」「裏声」「ヘッド」「ファルセット」などの言葉が混在することで、学習者の混乱が生じやすくなっています。 ミックスボイスを理解するためには、まず用語の共通認識と言語の擦り合わせが欠かせません。 桜田は現場で「地声」「裏声」といった音の結果をイメージ… 続きはこちら≫

  • 結局ミックスボイスってなに?第9話:ベルティングの実践法

    第9話:Cストラテジーの実践 ― F₂主導のあ母音と音量制御の科学 ベルティング(Cストラテジー)とは何か 現代ポップスやミュージカルのベルティング唱法を科学的に説明しようとしたとき、避けて通れないのがRichard Lissemore氏、論文内のCストラテジーという概念です。これはRichard Lissemore(2019)が提唱したA〜Dストラテジーモデルのうち、F₁(第一フォルマント)がf₀(基本周波数)より下に位置する声道設計を指します。 言い換えると、声帯の基本振動(source)と声道の主共鳴(第1共鳴/filter)が整合しない状態で、代わりにF₂(第二フォルマント)を主たる共鳴源として利用する発声法です。 クラシックの発声がF₁主導で声帯のエネルギーを声道が補助するのに対して、Cストラテジーでは声帯が自律的に振動し、声道はその結果を整える音色デザイン装置として機能します。この違いが、クラシックとCCM(Contemporary Commercial Music)の音響的・生理的な最大の分岐点となります。 つまりCストラテジー(ベルティング… 続きはこちら≫

  • 機能性発声障害と歌手のためのボイストレーニング シリーズ総括まとめ

    機能性発声障害と歌手のためのボイストレーニング ― シリーズ総括 歌手にとって声は単なる楽器ではなく、自身の存在そのものを伝える表現手段です。 しかし現実には、多くの歌手が声の不調に悩み、時にはキャリアを左右する重大な局面に直面します。 「高音が出にくくなった」 「声がかすれて思うように響かない」 「ステージに立つと急に声が詰まる」 こうした訴えを持ちながら病院に行くと、「検査上は異常なし」と診断されるケースが少なくありません。 器質的な病変が見つからない一方で、歌唱における深刻な困難が続く。これが機能性発声障害と呼ばれる領域であり、歌手に特有の課題です。 本シリーズでは、全8話にわたり「歌手と機能性発声障害」をテーマに取り上げました。 ここではその総括として、各話を振り返りながら全体像を整理していきます。 第1話:発声障害とは?歌手が知るべき基礎知識 第1話ではまず「発声障害」という言葉の整理から始めました。 大きく分けると、声帯に結節やポリープといった物理的な変化が生じる器質性発声障害と、構造に… 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第7話:機能性発声障害における統合的アプローチ

    第7話:機能性発声障害における統合的アプローチ 歌手や声優の発声障害をサポートしていると、しばしば痛感するのは「一人の専門家だけでは十分に対応できない」という現実です。器質的な異常がないケース、検査では「異常なし」と診断されるケース、そして歌唱でのみ深刻な支障が現れるケース——これらは機能性発声障害と呼ばれ、日本でも診断名として一般的に用いられています。 しかし、この診断名だけで治療や支援の方向性が明確になるわけではありません。むしろ問題はここから始まります。歌手にとって求められる声のレベルは、日常会話を超える非常に高度なものだからです。本稿では、機能性発声障害に対して有効とされる統合的アプローチについて整理し、医師・言語聴覚士(SLP)・ボイストレーナーの役割を比較しながら考えていきます。 1. なぜ統合的アプローチが必要か 機能性発声障害の厄介さは、診断や評価の曖昧さにあります。器質的疾患(声帯結節やポリープなど)であれば診断名がつきやすく、治療方針も比較的明確です。ところが機能性発声障害は、ストロボスコピーでも決定的な異常所見が見つかりにくく、… 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第6話:心因性要素・歌手のイップスと発声障害

    第6話:心因性要素・歌手のイップスと発声障害 「リハーサルでは普通に歌えるのに、本番で急に声が詰まってしまう」 「マイクの前に立つと、喉が固まって息もれの声しか出なくなる」 こうした声の不調を訴える歌手や声優は少なくありません。検査では異常が見つからず、日常会話では問題なく声を出せるのに、ステージや収録といった特定の環境でだけ症状が現れる。この現象は、スポーツや楽器演奏で知られる「イップス(yips)」と非常に似ています。 本稿では、イップスの定義と研究を整理し、歌手に特有の「声のイップス」について掘り下げていきます。さらに、治療法がまだ確立していない現状の中で、スポーツや音楽領域の研究から応用できるヒントを検討します。 1. イップスとは何か? イップス(yips)は、もともとゴルフのパット動作で知られる現象で、技術的には可能な動作が心理的プレッシャーや神経的要因によって阻害されるものです。手が震える、痙攣する、動作が固まるなど、特定のタスクで制御不能な運動が起こります。 Smithら(2003)の研究によれば、ゴルファー… 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第5話:代償発声と二次的障害

    第5話:代償発声と二次的障害 代償発声(Compensatory vocalization)と言う言葉を知っていますか? 代償発声とは、発声に必要な機能が十分に働かないとき、他の筋肉や方法で無理に声を出そうとすることを指します。一見すると、声が出ていますし、コントールが上手な方であれば、かなり上手な歌唱にもなり得ます。しかし効率が悪く、声帯や周辺筋肉に過度の負担をかけ、長期的には二次的な障害につながります。 本稿では、代償発声のメカニズムと、それが引き起こす二次的障害について整理し、研究とケーススタディをもとに改善の方向性を考えていきます。 1. 代償発声とは何か? 声帯や喉頭の基本的な機能が十分に働かないとき、人は無意識に「別の方法」で声を出そうとします。これが代償発声です。 例えば、声門閉鎖が弱いとき、首や肩の筋肉に力を入れて無理に声を出そうとする。あるいは、声がかすれるのを補おうと息を強く押し出す。これらは短期的には音を出すことができますが、効率が悪く、声帯の酷使につながります。 Koufman & Isaacson(19… 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第4話:歌唱発声と臨床評価の乖離

    第4話:歌唱発声と臨床評価の乖離 「会話は問題ないのに、歌うと声が詰まる」—— 歌手や声優にとって、こうした悩みは決して珍しくありません。 実際、病院で診察を受けた際に「異常なし」と告げられるケースも多いのですが、その一方で本人は歌唱時に深刻なパフォーマンス障害を感じています。ここに、日常会話を前提とする臨床評価と、歌唱という高度なタスクの間に存在する大きな乖離が表れています。 本稿では、このギャップがなぜ生じるのかを整理し、研究知見と臨床の限界、そしてボイストレーニングによるハビリテーションの可能性について考察します。 1. 歌唱の要求と臨床検査のギャップ 臨床現場での検査は、ストロボスコピーや内視鏡を用いて「いー」といった簡単な発声をさせ、その際の声帯の周期性や閉鎖の程度を観察するのが一般的です。これは日常会話に必要な最低限の声の機能を評価するには十分ですが、歌唱のような高度な発声タスクを反映できているとは言いがたいでしょう。 歌唱には、以下のような特徴的な要求があります。 - メロディの変化に沿った複雑な声帯運動 - … 続きはこちら≫

  • 歌手の機能性発声障害 第3話:機能性発声障害(MTD)の理解と歌手への影響

    第3話:機能性発声障害(MTD)の理解と歌手への影響 「声が出にくい」「高音になると急に詰まる」 歌手や声優など、声を職業にしている人の間で頻繁に耳にする悩みです。 声帯結節やポリープのように器質的な変化があれば診断は比較的容易ですが、実際には検査上は異常が見られないケースも多く存在します。 日本ではこのようなケースに「機能性発声障害」という診断名がつけられるのが一般的です。 国際的には「Muscle Tension Dysphonia(MTD, 筋緊張性発声障害)」と呼ばれます。 本稿では、機能性発声障害について定義や分類を整理しつつ、歌手や声優にとってなぜ大きな壁になるのかを考察していきます。 さらに、治療やボイストレーニングによるハビリテーションの可能性についても研究を交えて解説します。 1. 機能性発声障害(MTD)の定義と分類 機能性発声障害とは、声帯に器質的な異常がないにもかかわらず、声を出す機能に問題が生じる状態を指します。国際的にはMuscle Tension Dysphonia(MTD)がその代表であり、特に声を酷使する職業(… 続きはこちら≫

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