ボイストレーナー育成一覧

  • 練習とフォーカスの科学 ― 効率的なスキル定着

    前回は運動学習の基礎、記憶システムとフィードバック法について書きました。 歌手の学習方法を学ぼう!― 基礎理論とフィードバック 歌のトレーニングは、ただ繰り返せば良いというものではありません。 ボイストレーニングの成果は、練習の「構造」をどう設計するか、また学習者の「注意」をどこに向けるかによって大きく左右されます。上達のスピードも定着の度合いも変化するのです。 運動学習の研究からは、歌唱指導やボイストレーナーの実践に直結する知見が多数示されています。 ブロック練習とランダム練習 歌手がフレーズを何度も繰り返す練習は典型的な「ブロック練習」です。対して、異なるフレーズや別の曲を混ぜながら練習するのが「ランダム練習」です。 - Shea & Morgan (1979) は、運動課題の実験で「習得初期にはブロック練習が有利だが、保持や転移にはランダム練習が優位」であることを示しました。 - その後の研究でも、ブロック練習は「短期的なパフォーマンス改善」に強く、ランダム練習は「長期的なスキル保持と応用」に強いことが繰り返し確認されています。 - 最新のメタ解析… 続きはこちら≫

  • オンセット法 – 子音に依存したボイトレから卒業

    歌い始めの「声の立ち上がり=オンセット」は、歌手にとってとても大切な要素です。 桜田は近年、オンセットを表現の演出だけではなく、広い音域で無理のない発声バランスを作るためのトレーニングとして注目しています。 これにより、広い音域を獲得するだけでなく、ステージやレコーディングで求められる「良い声」を作ることにも役立っています。さらに、ハリウッド式ボイトレでよく見られる「子音に依存した発声練習」から脱却するヒントとしても活用しています。 オンセットの種類と特徴 発声教育や音声療法の分野では、オンセットは大きく三つに分類されています。 バランスト・オンセット(Coordinated Onset) 息の流れと声門の動きが同時に起こるタイプです。声門閉鎖率はおおよそ50%前後を目標にすると安定しやすく、その後に続く母音も整いやすいとされています。瞬発性を高めるトレーニングとしても効果的です。 グロータル・オンセット(Glottal Onset) 声門を先に強く閉じてから息を当てるため、スタッカートが固まりやすくなります。筋肉の緊張が強い兆候として現れることもあ… 続きはこちら≫

  • クラシックからベルト唱法への移行とリスク

    クラシック発声を基盤として訓練を積んできた女性歌手が、ミュージカルやポップス(CCM)に挑戦する際に直面する大きな課題のひとつが「ベルト唱法」への適応です。 クラシックの声区操作や共鳴戦略をそのまま用いてベルトを試みると、過剰な声門閉鎖・喉頭挙上・喉周囲筋の緊張を伴い、機能性発声障害(筋緊張性発声障害)に発展する危険性があります。 これは臨床的にもよく見られる問題であり、ジャンル移行が単なる「スタイルの違い」ではなく、生理学的にまったく異なる発声パターンへの再学習を要する複雑な課題であることを示しています。 桜田ヒロキ考察 桜田ヒロキは、クラシックの声区制御をそのまま残してベルトを試みる女性歌手を多く見てきました。 多くの場合、喉頭を無理に押し上げてしまう「代償パターン」が身体に染みつき、喉頭全体の過緊張に繋がります。 特に女性のクラシック発声とベルト発声の違いは、甲状被裂筋(TA)の介入の度合いにあります。 ベルトでは TA の介入によって声門閉鎖率(CQ)が上昇し、声区チェンジの位置自体が高く設定されます。 しかし、TA の関与が弱いまま「地声的な音色」を作… 続きはこちら≫

  • 音域の本当の見方 — VRPが教える“使える声

    ブログ「オーディションでの音域の欄。あなたはどう書く?」が大変好評でしたので、今回はさらに専門性を高めた視点からお話しします。 テーマは「VRP(Voice Range Profile)」 単なる音域が「ここから、ここまで」では見えてこない、本当に使える声の評価方法について解説します。 オーディションの音域欄、本当に意味がある? 多くのオーディション用紙には「音域」の記入欄があります。 例:地声はG3〜E5、裏声は…といった具合です。 しかし、この数字だけでその人の歌唱力や適性を正確に判断できるでしょうか? 音楽ジャンル(クラシックかCCMか)、メロディのパターン、テッシトゥーラ(楽曲中でよく使う音域)、発音や歌詞の母音、声質の方向性など、影響する要素は非常に多岐にわたります。 そのため、単に「地声でどこまで出る」「裏声でどこまで出る」と書くだけでは、本当の音域は見えてきません。 賭けても良いですが、審査員はこの欄を大した指標にならない事も分かっていると思います。(笑) 現実的な対応(少しだけ皮肉を込めて) とはいえ、応募用紙に空欄は許され… 続きはこちら≫

  • Vocologistになりました。

    この度、桜田ヒロキはニューヨーク大学にてVocologyコースを修了し、修了証を獲得しました。 Vocologyとは? Vocologyと言う言葉はアメリカの科学者Ingo Titze氏によって作られた言葉です。 Ingoは「Science and Practice of Voice Habitation(発声強化のための科学と実践)」と定義しています。 医師やボイス・セラピストが行うリハビリではなく、求められたタスクに対して一般レベル以上の技能習得をさせる事を目的としています。 歌手が機能性音声障害に陥ってしまった際、一般的な機能回復が行われた声に対して、さらに高い発声技能を習得させる事を目標とします。 つまり医師や言語聴覚士からクライアントを引き継ぎ、歌手の技術を再構築させる事が出来ると考えられます。 認定Vocologist? 「認定されたVocologist」と言う言葉は存在しません。 Pan American Vocology Association (PAVA)ではVocologistの定義としてボイス・スペシャリストとして声の複合的な… 続きはこちら≫

  • 声を強く出力するために声門閉鎖はどのくらいがベスト?

    近年のボイトレでは「強い声では声門閉鎖!」と言う風潮があります。 これも一部は正しいのですが、「声門閉鎖が100%行われると声帯は振動しなくなる」と言うのもあり、「良い塩梅が重要」と言うのはなんとなく分かっている方は多いと思います。 何よりも声門閉鎖が強烈に高いと、声帯出血など怪我のリスクが高まりますし、これが癖化すれば過緊張発声、過緊張性発声障害に陥る可能性もあります。 どのくらいが良い塩梅なのでしょうか。 声においてのパワーは、声帯の音と共鳴 声は、声帯で作られた音が、声道(共鳴腔)を通り、出力される母音や声色が出力が決定されます。 詳しくは過去ブログ 「ソースフィルター理論について」についてご覧下さい。 共鳴と声帯と言う観点で声のパワーを考えると声帯で作られる音そのものが、ある程度大きな音である必要はありますし、声道の持つ周波数特性との適合がうまくいく必要もあります。 声門閉鎖によるパワーは喉頭原音(声帯そのものの音)に所属しますので、今日はこちらにフォーカスを置いてみましょう。 息の流れ+声門閉鎖で作られる空気の加圧と減圧の大きさ 大… 続きはこちら≫

  • ボーカルマッサージ 顎の筋肉の動きについて

    ボーカルマッサージ/ボーカル・マニュアルセラピーの重要な施術に顎へのアプローチがあります。 顎は声道の中でも特にコントロールが重要な部位になります。 (外側からの目視が出来るので、意識的にコントロールしやすい部位でもあります。) それでは顎が充分に開かないと、どのような弊害が起こるのでしょうか? 顎が開かない事による歌への弊害 ・高音部で声道を短くする事が出来ないため、高音での共鳴が阻害される ・高音部で声道を短くする事が出来ないため、代わりに喉頭を大きく引き上げる →とても苦しいです ・声色が鈍く聞こえる →良い声と認識され辛い ・高音部で顎を上げるような動きをしてまう →とても苦しいです これらの事が起こらないようにするために、顎の施術を行います。 逆に顎が自由に開閉出来ると、このようなメリットが得られます。 顎を適切に開く事が出来るメリット ・高音域での共鳴が最適化され、筋力的な発声に頼らなくて済む →楽に発声できます。 ・喉頭を過剰に持ち上げる必要がなくなるため、リラックスした発声を行える ・適度に共鳴周波数を上げる事により、明瞭かつ… 続きはこちら≫

  • 甲状舌骨膜(thyrohyoid membrane)へのアプローチ

    ボーカルマッサージ/ボーカル・マニュアルセラピーで喉頭周辺へのアプローチで重要な部位の1つを紹介します。 甲状舌骨膜(thyrohyoid membrane)と言われる部位です。 甲状舌骨膜とは? 舌骨と甲状軟骨(のどぼとけ)の間をつなぐ組織です。 専門書では下記のような記載がありました。 「舌骨下面と甲状軟骨上縁の間に張る弾性繊維に富む結合組織性の膜で、以下のような特徴がある。 正中部は両側縁は歩く肥厚し、正中甲状舌骨靱帯、甲状舌骨靱帯と呼ばれる。 左右に小さな穴があり、上喉頭動脈、上喉頭静脈、上喉頭神経を通す」とあります。 筋肉ではなく、コラーゲンを多く含む靱帯で形成されていると言う特徴があります。 甲状舌骨膜の穴から通る、上喉頭神経は音程の生成に必須な輪状甲状筋を支配します。 上喉頭動脈は甲状舌骨筋、粘膜、喉頭の腺に栄養を供給します。 つまり、歌唱や会話の技術に不可欠な筋肉をコントロールする神経が通っており、声帯を含む喉頭の内側の栄養を供給するのに重要な部位と言えます。 周辺の筋肉の緊張により幅が狭い事がある 喉頭の周辺の筋肉が緊… 続きはこちら≫

  • 舌骨上筋群(suprahyoid)の緊張を取る方法

    ボーカルマッサージ/ボーカル・マニュアルセラピーの目的は、「美しい声色の取得の助け」「楽な発声の習得の助け」「音域の拡大の助け」など多岐にわたります。 リラックスした発声器官の状態を作り、発声練習や歌唱と言った運動学習の向上の助けにする事により、技術習得を早める事が出来ると考えます。 ボーカルマッサージのターゲットの1つとなる筋肉群の一つが舌骨上筋群になります。 ターゲットの1つとなる筋肉群 舌骨上筋群 舌骨上筋群(suprahyoid)は、 顎舌骨筋(Mylohyoid),顎二腹筋(Digastric),茎突舌骨筋(Stylohyoid),オトガイ舌骨筋(Geniohyoid)の4つの筋肉です。(左右に対になっているのが特徴です) 「舌骨上筋群は、舌骨から頭蓋底または下顎に向けて上方に筋線維が走り、嚥下時には舌骨を介して喉頭を前上方へ引き上げる。(Sagusa 2010)」とあります。 歌唱時においては 1 下顎を後方に引いて口を開く 2 舌骨を介して喉頭を前上方へ引き上げる これらが主な役割になると思います。 顎舌骨筋(Mylohyoid)の図… 続きはこちら≫

  • 咽頭収縮筋を中心とした喉頭周辺筋への施術

    ボイストレーニングの合間に行うボーカルマッサージがすごく好評です。 僕がロンドンで学んだボーカルマッサージ/ボーカル・マニュアルセラピーは、「喉頭、顎、首、舌」を中心にオイルを使わずに行う手技です。 この全てを行おうとすると50分程度要してしまいますが、喉頭のみにしぼれば約15分程度で施術を終える事が出来ます。 ターゲットの1つとなる筋肉 咽頭収縮筋 咽頭収縮筋は上咽頭収縮筋、中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋の3つに分けられています。 上咽頭収縮筋は喉頭の大分、上に位置するため手は届かず、、、。 実際に手が届く部位では中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋です。 この筋肉が固く硬直している状態ですと喉頭の動きを阻害してしまうため、歌手は「歌いにくい」と感じる事が多いようです。 ※中咽頭収縮筋の図 ※下咽頭収縮筋の図 咽頭収縮筋の起始(Origin)・停止(Insertion)について 【上咽頭収縮筋】 Origin:翼突下顎縫線、蝶形骨棘 Insertion:咽頭縫線 【中咽頭収縮筋】 Origin:舌骨 Insertion:咽頭縫線 【下咽頭収… 続きはこちら≫

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