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ツアー中に発声障害に罹患した歌手のリカバリー法は?(第3話)
- 2025.08.17
- ボイストレーナーのお仕事 加齢による声の変化 声の健康法 歌手の発声障害
前回まで、アメリカで実際に起きた発声障害と、そのリカバリーのプロセスを紹介してきました。最終回となる今回は、現場で役立つ具体的なアドバイスをまとめてみます。 インイヤーモニターの設計術 ステージでの歌唱に大きく影響するのが、イヤモニの音作りです。 多くのアーティストは「自分の声をしっかり返して欲しい」とリクエストしますが、逆に声が大きく聞こえすぎると、発声がぶれてしまうこともあります。 実際、桜田のクライアントの中には「声を少し引っ込める設定」に変えたことでリハから本番まで安定するようになった方がいます。 注意したいのは、モニターエンジニアが聴いている音と、歌手本人が聴いている音は同じではないという点です。 アーティスト歌っている時、常に「自分の生声」も聴いており、さらに生声はイヤモニの音に干渉します。 そのため、エンジニアの調整だけで完結せず、本人の感覚とのすり合わせが不可欠です。 「サンドイッチ練習」で声を軽く保つ 本番直前におすすめなのが「サンドイッチ練習」。 SOVT(ストロー発声など)→歌唱→SOVTという流れで行い、軽やかな発声感覚を思い… 続きはこちら≫
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ボーカルエクササイズは単なるウォーミングアップ?
- 2024.12.23
- ボイストレーナーのお仕事 ボイストレーナー育成 ミックスボイス
ボーカルエクササイズはなぜ重要なのか? ボーカルエクササイズ、具体的に音階を使ったエクササイズはなぜ必要なのかを理解していますか? 音階を使った発声練習を単なるウォーミングアップと考えているボイストレーナーも少なくありませんが、桜田ヒロキはどのような観点でボーカルエクササイズを行っているのかを解説します。 ウォーミングアップのためだけと考えていないですか? ボーカルエクササイズにはウォーミングアップという側面もあります。 ただ、それには ①歌声の評価法の理解 ②エクササイズの特性の理解 ③エクササイズに対して、その声がどのように反応するかの理解 を熟知しておく必要があります。 ライブやレコーディング前にウォーミングアップを任されることがありますが、それはクライアントとの関係性や、その声とエクササイズに対するリアクションをお互いに熟知しておくことが前提条件になります。 極端な話ですが、初対面のクライアントのレコーディングやライブと言う状況では、どのように声が反応するのか確信が持てずあまりお力になれない可能性があると言う事です。 問題の切り分け、… 続きはこちら≫
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Vocologistになりました。
- 2024.11.06
- ボイストレーナーのお仕事 歌手のための音声学
この度、桜田ヒロキはニューヨーク大学にてVocologyコースを修了し、修了証を獲得しました。 Vocologyとは? Vocologyと言う言葉はアメリカの科学者Ingo Titze氏によって作られた言葉です。 Ingoは「Science and Practice of Voice Habitation(発声強化のための科学と実践)」と定義しています。 医師やボイス・セラピストが行うリハビリではなく、求められたタスクに対して一般レベル以上の技能習得をさせる事を目的としています。 歌手が機能性音声障害に陥ってしまった際、一般的な機能回復が行われた声に対して、さらに高い発声技能を習得させる事を目標とします。 つまり医師や言語聴覚士からクライアントを引き継ぎ、歌手の技術を再構築させる事が出来ると考えられます。 認定Vocologist? 「認定されたVocologist」と言う言葉は存在しません。 Pan American Vocology Association (PAVA)ではVocologistの定義としてボイス・スペシャリストとして声の複合的な… 続きはこちら≫
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ボイストレーニングと実際の歌は「異なるもの」なのか?
- 2024.05.28
- ボイストレーナーのお仕事 ミックスボイス
仲良しのボイストレーナーの先輩(アメリカ人)と、僕の同期くらいのトレーナー(イギリス人)がFacebookで議論をしていました。 アメリカ人トレーナー「芸術性の追求の前に声の機能(改善が重要)」と書いたのに対し、 イギリス人トレーナー「双方とも伸ばす必要がある、それらを切り離す事は出来ない」と述べました。 イギリス人トレーナーの書いた文章はこちら 私はそれにあまり同意しません。 史上最もユニークで記憶に残るアーティストの多くは、機械的または技術的に自分自身を構築したわけではありません。 彼らは強いアイデンティティと美学/影響力を持つことから始め、その後訓練を受ける人もいました。 たとえばマイケル・ジャクソンのように。 もしインストラクターがメカニズム優先のアプローチで取り組んでいたら、ここまで素晴らしいアーティストは誕生しなかったと思います。 これはすべてインストラクター次第であり、歌手次第でもあります。 (失敗例として)機械的に歌い人たちにたくさん会ってきたが、彼らは機械的にリードしているからこそ完全に実現可能な美学を見つけることができません。(芸術的… 続きはこちら≫
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発声について「相談」は受け付けていますか?
- 2023.10.11
- ボイストレーナーのお仕事
桜田のレッスンは無料体験レッスンは実施していないため、知人の紹介などから希に「レッスンではなく、相談を受けてほしい」と言う依頼をされる事があります。 原則としてボイストレーニングや歌唱指導について「相談」として無料での提供はお断りする事にしています。 ボイストレーニングを口頭で説明するほど無意味な事はないから 過去に何度か知人の紹介で「相談」と言う名目で時間をお作りした事はありますが、お困りの事を話しとして聞いても、お互い「仮説」を話す事になるので「これほど不毛な時間はないな」と感じた事があります。 「じゃあ、歌ってごらん」と提案し具体案を提案した場合、それは相談ではなくレッスンになってしまうので、提案する事は出来ません。 声を聴いて、トレーニングを提案すれば15分程度でお互い明確になる事を、「仮にこうである場合、こういう提案をする事があります。」 と言う説明では結果的に 「なんか説明なボイストレーナーだな」と思われてしまう事はボイストレーナー自身にとって損以外の何物でもありません。 このような提案をする事自体がプロフェッショナルとして無責任な行動に… 続きはこちら≫
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咽頭収縮筋を中心とした喉頭周辺筋への施術
- 2023.05.16
- ボーカルマッサージ ボイストレーナーのお仕事 声の健康法 歌手のための音声学
ボイストレーニングの合間に行うボーカルマッサージがすごく好評です。 僕がロンドンで学んだボーカルマッサージ/ボーカル・マニュアルセラピーは、「喉頭、顎、首、舌」を中心にオイルを使わずに行う手技です。 この全てを行おうとすると50分程度要してしまいますが、喉頭のみにしぼれば約15分程度で施術を終える事が出来ます。 ターゲットの1つとなる筋肉 咽頭収縮筋 咽頭収縮筋は上咽頭収縮筋、中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋の3つに分けられています。 上咽頭収縮筋は喉頭の大分、上に位置するため手は届かず、、、。 実際に手が届く部位では中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋です。 この筋肉が固く硬直している状態ですと喉頭の動きを阻害してしまうため、歌手は「歌いにくい」と感じる事が多いようです。 ※中咽頭収縮筋の図 ※下咽頭収縮筋の図 咽頭収縮筋の起始(Origin)・停止(Insertion)について 【上咽頭収縮筋】 Origin:翼突下顎縫線、蝶形骨棘 Insertion:咽頭縫線 【中咽頭収縮筋】 Origin:舌骨 Insertion:咽頭縫線 【下咽頭収… 続きはこちら≫
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ベルティングボイスの作り方を解説します。
- 2022.09.20
- ボイストレーナーのお仕事 マインドセット・練習法
今回はVTチームのボイストレーナー向けの研修会の一部、「ベルティングボイスの発声法の訓練の仕方」について解説していきます。 ボイストレーナーの視線からなので「トレーニングの処方の仕方」という意味で書いています。 ベルティング発声とは? ベルティングボイスとは何でしょうか? 高くて力強い大きな地声と考えていただければいいと思います。 ここで定義しておきたいのが「叫び声」と「ベルティング発声」は大きく異なる物と言う事です。 まずは特徴を捉えていきましょう。 Techniqued Belt Voice(技術的なベルト発声)の特徴 ・トランペットのようなクオリティである ・力強く聞こえる ・音量変化が可能 ・美しい音色 ・繰り返し発声が可能 ・多くのボイストレーナーが好む声 Yelling voice(叫び声)の特徴 ・最も大きな声 ・音量の変化を起こせない(大きいのみ) ・美しい音色ではない ・ハイラリンクス ・サスティーン(音を伸ばすこと)は、ほぼ不可能 ・怪我しやすい(声帯出血、ポリープ、声帯結節など) ・多くのボイストレーナーが好まない声… 続きはこちら≫
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オーディションでの音域の欄。あなたはどう書く?
- 2022.05.25
- ボイストレーナーのお仕事
ミュージカルのオーディション等で良く書かれている「音域を書く欄」。 「どの様に書けばいいのですか?」 とかなりの頻度で質問を受けます。 この質問。本気でお答えしようとすると非常に難しいのです。 なぜ音域を書く程度の事が難しいのか? あるミュージカル女優さんのホームページのプロフィールに書かれた音域は以下の通りです。 E3からG6まで。 これを鍵盤上で表すとこんな感じです。 3オクターブ以上ですので、めちゃくちゃ広い音域になります。 ここで生まれてくる疑問は 「実際に歌唱に耐えられる音色で歌える音域なの?」ですし 「どの音楽ジャンルでその音域を使えるの?」もありますし、 「これに書かれた音域で声を伸ばす事もできるの?」も出ますし、 「1曲でその3オクターブを縦横無尽に動き回れるの?」 これらです。 この女優さんが声楽曲を歌うソプラノでしたらE3の音をだす事はほぼありません。 ましてやG6でベルティングなんて出来るわけもありません。(笑) ここで重要になるのが歌う音楽のスタイルやジャンル、音形、諸々の条件にによって声の出し方… 続きはこちら≫
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ライブ当日のボイストレーナーの仕事とは
- 2022.04.30
- ボイストレーナーのお仕事 声の健康法
ボイストレーナーの仕事の多くはスタジオでのレッスンとなりますが、ライブ会場やテレビ収録の現場まで伺い、アーティストの声を整える事もあります。 当日リハーサル前のウォーミングアップ ウォーミングアップの場所はアーティストによって異なります。 ボイストレーナーの部屋を専用に充ててくれる事もありますし、アーティストの楽屋で行う事もあります。 GENERATIONSのライブツアーに帯同した際はボイストレーナーの部屋が用意されていました。 「昨日はよく寝れた?」「疲れ残ってない?」等なんて事のない会話からその日の健康状態のチェックや話し声を聴き、その日の声の状態をチェックしていきます。 この時点での声の出方は、後のリハーサルから本番に向けての声のチューニングの仕方に影響が出ますので、慎重に聴き分けます。 チェック項目は ・話し声の低さ、高さ ・話し声にかすれはないか? ・歌い声(地声)の音程はフラット傾向にないか? ・歌い声(地声)のツヤ、響きは良いか? ・裏声が直ちに出せるか? 極端な場合、この中のチェック項目で、、。 「話し声が低く、かすれ… 続きはこちら≫
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リハーサル時にボイストレーナーは何をするのか?
- 2022.04.28
- ボイストレーナーのお仕事 声の健康法
ボイストレーナーのレッスンスタジオ以外での「現場仕事」と言ってもあまりピンと来ないかもしれません。 僕の場合も先輩ボイストレーナーの仕事に付きそって、ライブやレコーディングに行って勉強した経験もありません。 今日ここに書く事は、桜田ヒロキが「こんな事をやったら喜んでもらえるだろうな」と言う事をやっていった結果、仕事として成り立っていった事の紹介となります。 ウォーミングアップ&喉周りのストレッチ 「本番前のウォーミングアップ方法」で書いたのでこちらをご覧下さい。 リハーサル前にボーカル・ウォーミングアップをに行います。 この後に待つモニターチェックで声が本番に近い状態で仕上がっている事が重要です。 ウォーミングアップをする事、ウォーミングアップの仕方に寄って歌声は変わりますし、それはアーティスト本人の歌いやすさにも大きく関わります。 ※ライブのモニター環境とは、客席向けに作られた音響(カッコよい音優先)ではなく、アーティスト本人が歌いやすさを最優先した設定で作られた音です。 モニターチェックの対応 現在のライブでは、多くのアーティストがインイヤーモニ… 続きはこちら≫