オーディション審査の音域記入欄を検討してみた

Techniqued Vocal Range Index(TVRI)技術的歌唱音域の指標について

従来のオーディションでは、応募者に「音域(Range)」を自己申告させるケースが多く見られます。
例:地声はG3〜E5、裏声は〜 など。

しかし、この数字だけでは、実際に現場で使える声の幅を正確に判断することはできません。
そこで提案したいのが「技術的歌唱音域の指標」、Techniqued Vocal Range Index(TVRI)という新しい評価指標です。
これは、応募者が“どこまで出るか”ではなく、“どこまで音楽的に使えるか”を可視化するための方法です。

従来の音域申告の課題

単純な音域申告には、以下の問題があります。

瞬間的に出せる音と、持続して歌える音が混同される
 短く出せても、フレーズとして使えない音は実用的ではありません。

声区ごとの特性が反映されない
 地声・ミックス・頭声で同じ高さでも発声負荷や音質が異なります。

選曲やキャスティングのミスマッチを招く(と言うか、無駄な審査時間を取らせない事を優先する)

申告値だけを基にすると、実際のパフォーマンスで想定外の制限が出る可能性があります。

TVRIの基本構造

TVRIは、**瞬間到達可能音(One-Shot Range)と持続可能音域(Sustained Range)**を声区ごとに記録します。

審査側のメリット

実用的な音域の把握
 最高音だけでなく、舞台やレコーディングで「使える」範囲が明確になります。

選曲・配役の精度向上
 候補者の持続音域を考慮することで、無理のないキャスティングが可能。

トレーニングやリハーサル計画に活用
 瞬間音と持続音の差が大きい場合、持続力向上が必要な箇所を把握できます。

導入のご提案

オーディション審査票に、従来の単一音域申告欄の代わりにTVRI表を設けることで、
審査員は応募者のパフォーマンス可能性をより正確に判断できます。

あるソプラノ歌手のTVRI例:
頭声・持続可能(伸ばせる):D4〜C6まで 
頭声・瞬間可能(伸ばせない): D4〜F6まで
→ 頭声では音域が非常に広く、伸ばす事も出来ると判断出来る

ミックス・持続可能(伸ばせる):C4〜C5まで
ミックス・瞬間可能(伸ばせない):C4〜F5まで
→ ミックスでの高音域の歌唱は限定的(伸ばせる音域は狭いが、一瞬当てる程度なら音域は広い)

地声・持続可能(伸ばせる):E3〜B4まで
地声・瞬間可能(伸ばせない):E3〜D5まで
→ 地声で伸ばせる音域は狭い

この歌手の場合、明らかに頭声での歌唱が得意なので、クラシック系のバックグラウンドがある事が考えられます。
しかし地声の音域を見ると明らかに音域はソプラノと言うには狭いと考えられ、CCM(ポップス系)の歌唱は苦手と予想できます。

まとめ

Techniqued Vocal Range Index(TVRI)は、
「数字の音域」ではなく「現場で使える音域」を評価するための審査基準として設計しました。
参考までにですので、改良をして現場で使えるレベルにまで作り込んでいきたいと思います!

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
米国Speech Level Singingにてアジア圏最高位レベル3.5(最高レベル5)を取得。2008〜2013年は教育管理ディレクターとして北アジアを統括。日本人唯一のインストラクターとしてデイブ・ストラウド氏(元SLS CEO)主宰のロサンゼルス合宿に抜擢。韓国ソウルやプサンでもセミナーを開催し、国際的に活動。
科学的根拠を重視し、英国Voice Care Centreでボーカルマッサージライセンスを取得。2022–2024年にニューヨーク大学Certificate in Vocology修了、Vocologistの資格を取得。
日本では「ハリウッド式ボイストレーニング」を提唱。科学と現場経験を融合させた独自メソッド。年間2,500回以上、延べ40,000回超のレッスン実績。指導した声は2,000名以上。
倖田來未、EXILE TRIBE、w-inds.などの全国ツアー帯同。舞台『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』主演・岩本照のトレーニング担当。
歌手の発声障害からの復帰支援。医療専門家との連携による、健康と芸術性を両立させるトレーニング。

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