声の病気と代償的な発声のケーススタディ

〜手術とリハビリから学ぶ歌手への警鐘〜

声帯ポリープや結節といった病変は、歌手にとって避けて通れないリスクのひとつです。
声を多く使うプロ・ボイス・ユーザーは常に怪我や不調とのリスクと戦っています。
声帯結節などが出来た場合、「手術をすればすぐに声が戻る」と思われがちですが、実際の現場ではそう単純ではありません。

術後に残る「代償的な発声」

桜田がVocologyの中で受けたクラスの中で紹介された症例では、
声帯ポリープを二度手術で取り除いたにもかかわらず、声は依然として低く、息漏れが強く、声量も戻りませんでした。

原因は、長期間にわたり 病変を抱えた声帯に合わせて作られた発声習慣(代償的な発声) です。
ポリープや結節がある状態で歌い続けると、
・喉の奥で力んで声門を強く押し閉じる。
・逆に声門を十分に閉じられず、息漏れで補う
といったパターンが「その人の声の出し方」として固定されます。

手術で病変を除去しても、この癖が残れば自然な発声には戻れません。

桜田の現場で起きたこと

桜田のクライアントの中にも、代償的な発声の影響で 地声が出せなくなってしまった歌手がいました。
彼らの回復には、1〜2年という長い時間を要しました。
・高音を無理に押し出す、
・低音で息が支えきれない、
といった癖を一から修正し、声のサブシステム(呼吸・声門閉鎖・共鳴)のバランスを再教育する必要があったのです。

歌手にとって「声が戻らない期間」はキャリアに直結します。
舞台、オーディション、レコーディングの機会を失うリスクは計り知れません。

手術を検討する前に

もちろん、手術が最適な選択肢になることもあります。
しかし、発声習慣が大きく関与している場合には、手術だけでは問題が解決しないことを知っておく必要があります。

だからこそ、声帯への執刀を考えるときには、セカンドオピニオン。
可能であればサードオピニオンまで聞いたうえで慎重に判断することを強くおすすめします。

まとめ

病変が長期化すると「病変に順応した声の使い方」が身についてしまう
それは歌唱技術を妨げ、地声が出せなくなるほど深刻化することもある
回復には年単位の時間がかかることもある

手術は慎重に、必ず複数の専門家の意見を聞くこと。

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
米国Speech Level Singingにてアジア圏最高位レベル3.5(最高レベル5)を取得。2008〜2013年は教育管理ディレクターとして北アジアを統括。日本人唯一のインストラクターとしてデイブ・ストラウド氏(元SLS CEO)主宰のロサンゼルス合宿に抜擢。韓国ソウルやプサンでもセミナーを開催し、国際的に活動。
科学的根拠を重視し、英国Voice Care Centreでボーカルマッサージライセンスを取得。2022–2024年にニューヨーク大学Certificate in Vocology修了、Vocologistの資格を取得。
日本では「ハリウッド式ボイストレーニング」を提唱。科学と現場経験を融合させた独自メソッド。年間2,500回以上、延べ40,000回超のレッスン実績。指導した声は2,000名以上。
倖田來未、EXILE TRIBE、w-inds.などの全国ツアー帯同。舞台『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』主演・岩本照のトレーニング担当。
歌手の発声障害からの復帰支援。医療専門家との連携による、健康と芸術性を両立させるトレーニング。

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