声が出しにくい!?機能性発声障害に陥るプロセスの例を解説

前回のブログ「声が出しにくくなった!原因を探る」で紹介した機能性発声障害。
その1つの例として考えられる「誤った発声パターンを学習してしまう」と言う事を紐解くために人間の運動学習について確認してみましょう。

人間の学習プロセスとはどんなもの?

歌や楽器の演奏、演技など技術習得のプロセスを観てみましょう。
ここでは歌唱技術の1つの例として「ビブラート習得」のプロセスで考えてみましょう。

1 無意識的に出来ない
ビブラートと言う技術自体を知らない状態です。
技術の存在を知らないので、自分が出来るかどうかもわからない。こういった段階の事を指します。

2 意識的に出来ない
これはビブラートと言う存在を知って、ビブラートをかけてみようと試みたが、思うように出来ない。この段階を指します。

3 意識的に出来る
この段階ではまだ不安定ではあるものの、意識をすればビブラートをかけられるようになった状態です。
この段階から「出来る」と呼べる段階になっていきます。

4 無意識的に出来る
特に何も考えなくてもビブラートが掛かるようになっている段階です。
よく「ビブラートは特に気にしなくてもかかるんだよね〜」と言う方がいますが、この方はこの段階にいます。

この運動学習のメカニズムと発声障害がどのように関係しているかと言うと、体は良い動作でも悪い動作でも関係なく、繰り返す事により、無意識的に出来る様になってしまう事です。
上記の例ではビブラートと言う歌唱で考えれば有効なテクニックになりますが、例えば高音にいけば決まって「ひっくり返る」や「過度に喉全体をかためる様に歌う」と言ったネガティブな事であっても繰り返し行うと体はその動きを学習してしまいます。

ですので、技術修得のための練習にしても、発声障害からの回復にしても取り組み方が非常に重要になります。
間違った発声を身に付けてしまうと修正に時間が掛かってしまいますし、重度の発声障害に陥るリスクもあると言う事です。

きっかけは?

前回のブログ「声が出しにくくなった!原因を探る」では大阪大学医学部附属病院の例を挙げましたがここでは当スタジオにいらっしゃる歌手や俳優、声優の代表例を上げてみます。

1 声の酷使
プロフェッショナル・ボイスユーザーの特徴として「声を休めたいのに休められない」と言う事が多々あります。
時に痛んだ声帯を無理に使い、誤った運動学習をしてしまい声が出しづらい状態に陥ってしまうのではないかと考えられます。

2 失敗
人前で歌ったり、発表したものが酷評を受けたり、自身が納得いかない出来となってしまい心に傷を負ってしまう。
そして無意識的に体を守るように喉をかためて発声をする癖がついてしまうと言う事があるようです。

3 風邪などの不調後
声帯や声道に炎症など異常な状態になる。
その状態で発声を行い通常の発声を忘れてしまう事があるようです。

4 声帯の手術
医師が自分の手で手術をした患者さんが発声障害になったなどと診断する事はあまり考えられないので、なかなか事例にはあがってこないとは思いますが、声帯結節の手術後に長期的に声の不調を訴える方は少なくありません。声帯の手術で良くなるかならないかは、やってみないと分からない部分が多いのは事実だと思います。
ただ、このような事例を多く観ていますので、声帯の手術はかならずセカンドオピニオン、サードオピニオンを取る事をおすすめしています。

5 ボイストレーニング
残念ながら紹介されたボイストレーニングのプログラムがあまり合っておらず、それを続けた結果、発声障害の原因になる事もあるようです。

6 イヤーモニター
あるボイストレーナーが機能性発声障害の原因として予測を出していました。
シンガーがライブで自分の声を解像度高く聴き取るために密閉型のイヤフォンを使う事があります。
「耳の奥でマイクを通った自分の声を聴く」と言うのは自然の中ではなく、結果繰り返し歌う中で通常の自分の発声法を忘れてしまう可能性はあるかもしれません。

おわりに

人間の運動学習の能力はとてもすごいものです。
繰り返し行う事により技術を習得し、無意識でも操作できるようになります。
ただし、常に忘れてはいかない事はエラー状態であっても繰り返し行う事により無意識に出来るようになってしまう事です。

無意識で行えるようになってしまったエラーパターンを意識化に落とし込み、正しいパターンを学習させるのには長い期間を要する事もあります。
歌っていて発声がおかしくなってきたかな?と言うレベルであれば信頼の出来るボイストレーナーに聴き取ってもらう判断を仰ぐのが良いでしょう。
もし十分な回答を得られない場合はセカンドオピニオンを求める事を検討してみるのも良いかも知れません。

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop

RECOMMEND
関連動画

高い音域が連続する事を想定したボイトレ・メニューを解説!

課題曲とエクササイズの難易度を合わせる事は非常に大事です。ここでは高い音域が連続する事を想定したトレーニング・メニューを提案します!

WATCH MORE

自分の声が高いタイプなのか?低いタイプなのか? 見分ける方法を解説します!

知識解説の動画になります。自分の声がどのようなタイプなのか?把握しておくとボイストレーニングの観点的に非常に有用な情報となります。

WATCH MORE

レッスンに来た時の歌声のチェックポイントを教えます

桜田ヒロキはボイストレーナー仲間の間でも超細かく歌声を聞き取り、フィードバック出来ると定評いただいています

WATCH MORE

声と意識の結びつけ方。その重要性を解説します。

あなたは声と意識の結び付けが上手に出来て、インテリジェントに練習が出来ていますか?
声のトレーニングは筋肥大を目指す筋力トレーニングとは異なり、頭で想像→実際に発声→理想と実際に出た声の誤差チェックが重要になります。

WATCH MORE

ビブラートやフェイク。豊かな声も手に入る練習法!

スタッカートを使ったトレーニングは、フェイク等の素早く動くフレーズに対応出来る柔軟性を養ってくれます。
さらにビブラートをかけるきっかけになってくれたり、豊かな歌い声を育てる等、恩恵をもたらしてくれます。

WATCH MORE

ボイトレで高い声は獲得したけど、歌で出せない!なんで!?

ボイストレーニングは高音も低音も目的にあった「出しやすい」状況を作って発声を出来るように仕向けます。

WATCH MORE
レッスンを予約する