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歌手のおかれる環境と医療現場のギャップから生まれる、機能性発声障害(MTD)の難しさ
歌手特有の声の世界 歌手の声は単なる「音声」ではなく、芸術表現そのものです。 発声の細部には、声区の移行、音色の変化、ブレスやビブラートのニュアンスなど、一般の話し声とは大きく異なる複雑な要素が絡み合っています。 しかし、こうした歌唱の特殊性や芸術性を理解することは、必ずしも医療従事者にとって容易ではありません。 MTDの誤診リスク 機能性発声障害(筋緊張性発声障害)は、器質的な損傷がないにもかかわらず、声帯周辺の筋肉の過緊張によって声の出しにくさや質の低下を招く機能性音声障害です。 プロ歌手では、特定の音域だけ出しにくい、長時間歌うとコントロールが効かなくなる、といった症状が現れることがあります。 問題は、これらの症状が「歌唱技術の不足」や「使いすぎによる一時的な疲れ」と誤解されやすいこと。 話声だけを基準に診断すると、歌唱中にのみ現れる微妙な筋緊張や声の破綻を見逃してしまい、診断や治療が遅れることも少なくありません。 専門評価の必要性 MTDを正確に診断するには、以下のような専門的アプローチが必要です。 ストロボスコピーによる声帯振動の観察 歌唱… 続きはこちら≫
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声の疲労、その正体は筋肉疲労だけじゃない!
多くの歌手やボイストレーナーは「声の疲労=筋肉の疲れ」と考えがち。 「筋トレの超回復のように、適度に声を痛めつければ強くなる」というのは誤解です。 声の疲労の本当の原因 声帯は発声中に毎秒100回。テナーの高音では500回、ソプラノの高音では1000回以上も振動しています。 その時に生じる最大の負担は、筋肉の疲れだけではなく、声帯粘膜同士の摩擦です。 この摩擦が強くなると、 ・粘膜内で熱が発生 ・微細な損傷 ・摩擦熱を下げるために組織内の水分移動による浮腫 が起こります。 歌唱と話し声と比べる16倍以上の摩擦熱が生じる事も 特に高音や大音量で歌うと、エネルギー損失は急増します。 1オクターブ上がるごとに摩擦熱は4倍、2オクターブで16倍にもなると言われています。 これが声質の劣化や音域制限の大きな原因です。 なぜ「超回復」理論が声には通用しないのか? 筋肉は損傷後の回復で強くなりますが、声帯の粘膜は同じ構造ではありません。 過剰な摩擦で粘膜が硬化・線維化すると、柔軟性が失われます。 声帯はトレーニングでは「傷つけない」ことが前提にな… 続きはこちら≫
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加齢を物ともしない声を手に入れるためには?パート3
「加齢に負けない声を作るために、最も重要な事は?」と聞かれて直ちに桜田の頭を浮かぶのは「ボーカル・エクササイズを行う事」!だと思います。 特にシンガーが声を衰えさせないためには一定のボイストレーニングは必須になります。 Use it or lose it!(使うか無くなるか!) 身体と同じように、声のトレーニングを続ける事は声の劣化を防ぐ、もしくは声の機能を向上が期待出来ます。 とにかく定期的にトレーニングを行う事が重要で、週3〜6回程度、あなたの目標や重要度に合わせて計画するのが良いと思います。 「カラオケをいつまでも楽しみたい」が望みであれば週2,3回を目標にすれば良いと思います。 「プロフェッショナルなクオリティを維持したい、近づきたい」のであれば週5程度のトレーニングや練習は必要でしょう。 「トレーニング」「練習」「レッスン」 「トレーニング」「練習」「レッスン」を桜田は分けて考えています。 「トレーニング」は、ボイストレーニングを指すことが多く、達成するタスクを明確にしてボイストレーニングを行います。 多くの場合で音階練習、ボーカリーズで行… 続きはこちら≫
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加齢を物ともしない声を手に入れるためには?パート2
ここまでは加齢により喉頭機能等、直接声を衰えさせないようにする方法を書いてきました。 今回は身体を急激な老化から守る観点で書いていこうと思います。 呼吸器の変化に対応するには? 有酸素運動や胸郭・腹筋・背筋などの体感トレーニング 呼吸筋は主に有酸素運動などでトレーニングする事が出来ます。 呼吸適度にが激しくなる運動は呼吸筋の発達・維持に役立ちます。 これらは加齢と共に低下して行きますので、年齢が進めば進むほど運動は重要になってきます。 呼吸トレーニング 呼吸の支えを使ったトレーニング、場合によっては呼吸トレーニングとしてパワーブリーズを使ってみるのも良いかもしれません。 もちろん歌唱トレーニング自体も呼吸のトレーニング要素を含みますので積極的に歌う事も大切です。 姿勢を正す練習 理学療法士の行う姿勢矯正や、ヨガ、ピラティスなども有効だと思います。 VTチームの中では三浦優子インストラクターがこれらのトレーニングを行っています。 優子先生の立ち姿は本当に美しいです・・・! 筋力の低下に対応するためには? 有酸素トレーニング 上記に記載されて… 続きはこちら≫
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加齢を物ともしない声を手に入れるためには?パート1
ここまでのブログでは加齢による身体の変化、身体の変化による声への影響について話してきました。 今回からは加齢による声への影響を抑えるためにどのような事を行えば良いのかを考えてみましょう。 喉頭の変化に対応するためには? 男女ともに地声・裏声、その2つを上手に行き来するトレーニングを行う事。 地声の時は、声門閉鎖を強く行うため、甲状被裂筋、外側輪状被裂筋の活動。 裏声の時は、声帯を引き延ばす輪状甲状被裂筋の活動が優勢になると言われています。 (実際の筋運動はそんなにシンプルではないのですが、コンセプトを捉えやすくするためご了承ください) それぞれの筋力低下を防ぎ、筋連動を上手に行うために全ての声区(レジスター)のトレーニングが重要と考えられます。 これら声区をダイナミックに行き来するためには外喉頭筋群の連動も起こると考えられるため、全レジスターをまたいだボイストレーニングは発声に関与する筋肉をほぼ全てトレーニングする事が出来ると考えられます。 声帯の変化に対応するためには? 声帯のストレッチを行う事 ここで言うストレッチ運動は上記の全レジスターをまた… 続きはこちら≫
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加齢による機能性発声障害
前回のブログでは加齢による声の変化はなぜ起こるのか?について書いてきました。 一般的には声の変化は40〜50歳くらいで起こると言われていますが、歌手や俳優が「だんだん声を出すのが辛くなってきた」と言う年齢は30台前半くらいでも珍しくはありまえん。 特に声が高い、軽やかな女性の多くは30代に差し掛かったくらいで一度、変化を感じ、そこから上手に技術の向上で対応出来れば大した問題にはならないようです。 しかし微妙な声の変化に対応出来ず、更にバランスの悪い発声が癖化してしまうと30代前半でも元は出来ていた発声が出来なくなってしまうと言うケースは少なくない様に感じます。 機能性発声障害? 近年、歌手が機能性発声障害と診断されたと発表する事が増えたように感じますし、皆さんもよく見かけているのではないでしょうか。 機能性発声障害とは、声帯などの発声器官に器質的な障害がないにもかかわらず、声が出しにくい、思うような声が出ないなどの症状が現れる発声障害です。全発声障害の患者さんの約8%を占めています。 機能性発声障害には、次のような種類があります。 過緊張性発声… 続きはこちら≫
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加齢による身体と声の変化とは? パート2
呼吸器の変化 肺の容量の低下 加齢により肺の容量が低下します。 肺圧が下がる事により、音量の低下。 肺の容量の低下により長いフレーズを一息で歌いづらくなります。 肺の柔軟性の低下 肺の柔軟性の低下により呼気、吸気ともにスムーズに行う事が難しくなります。 内肋間筋、横隔膜の筋力低下 空気を吐き出す時に使う内肋間筋が弱くなります。 空気を取り込む際に使う横隔膜の筋力が低下します。 これにより呼気、吸気ともに下がると考えられます。 筋肉の変化 呼吸のプロセスを描いたグラフ。加齢により使えない空気の容量が増えます。 筋肉の質量の低下 加齢により前進の筋肉が減ります。 声帯は筋肉の占める割合が大きいため、それが減る事により音量の低下、高音化が考えられます。 姿勢の変化 筋力の低下により、姿勢に変化が起こります。 前屈みになったり、背中が曲がるなど、歌にとって好ましくない姿勢になりやすくなります。 柔軟性の低下 加齢により筋肉の柔軟性が失われます。 声帯そのもののしなやかな動きに影響は出るでしょうし、それは呼吸器を支える筋肉にも起こりま… 続きはこちら≫
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加齢による身体と声の変化とは? パート1
体が年齢を重ねると共に変化をするのと同様に、歌手の声も加齢に伴って変化が起こります。 その変化に柔軟に対応出来れば大きな問題は起こりませんが、上手に変化に対応出来ず「年齢を重ねて歌えなくなってしまった」「下手になってしまった」と言う訴えを日々受けます。 もちろん年齢によって身体が変化し、その身体を上手に操作出来なくなる事は「下手になってしまった」と言う事と類似しているとも言えますが、年齢の時々に合わせた発声法を微調整していく事が大切です。 今回は具体的に加齢に伴い、どのように身体変化していくのかを書いてます。 喉頭の変化 喉頭は吊り下げられた組織 軟骨の骨化 喉頭は軟骨組織ですが加齢と供に柔軟性を失い骨化していきます。 骨折リスクも高まります。 筋コントロールの低下 他の身体の部位と同じように筋力が衰えます。 それにより音色のコントロール、ピッチのコントロールが難しくなり高音域が失われやすくなります。 喉頭が下がる 喉頭は筋肉などで吊られている組織です。 筋力の低下により喉頭が下がってきます。 喉頭が下がると音響的に若年時にくらべ低… 続きはこちら≫
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歌い始めた途端に喉がからむ!原因と解決方法とは?
「歌い出すと、喉がからんで咳払いしてしまった!」 そんなご経験はありませんか? 本番で歌っている途中で咳払いしてしまうなんて、避けたいところですよね。 それに、1番の曲の聞かせどころで咳が出てしまうのはとても残念。 今回はそんな悩みを持っている方たちのために、咳払いしてしまう原因と解決方法についてお話していきたいと思います。 どうして喉がからんでしまうの?その原因とは? それは、“歌う時に喉に必要以上の緊張が入ってしまう”ためです。 普段の話し声の音域や音量を超えた声を出すと、十分に歌手としての訓練をしていないと声道(喉の内側、口)が緊張で内側に縮みます。 それを喉は、「異物を追い出さなきゃ!」と感じ、咳払いが起こってしまうのです。 特に、ブリッジエリア(裏声〜地声に変わるエリア)を出す場合は、声門下に大きな圧力が掛かる事があります。 そして、声門の閉鎖部に強く力を加えてしまうので、高音でのベルティングを出す時にこの症状が良く起きるようです。 “Vocology”と呼ばれる発声に関する研究を進める物理学者・研究者Ingo Tize氏は、… 続きはこちら≫
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ある日突然、声(高音)が出なくなる!?
プロ・シンガー、もしくは歌う頻度が非常に多い方達が、近年「機能性発声障害」と言う診断を受ける事が多くあります。 この記事をざっくり言うと。 ・ 突然、何かをきっかけに高い音域が出なくなるケースがある ・ 耳鼻科で咽頭、喉頭を診察してもらうが「異常なし」と診断 ・ 以前、楽に歌っていた音域も全くでない ・ 高音に「天井」が出来てしまったように届かなくなる ・・・そんな際の対処方法をお話しします。 突然、高い声が出ない! ある日突然声が詰まったようになってしまい、高音が出なくなってしまうと言うケースに悩みスタジオに来られるクライアント様が年に数名いらっしゃいます。 特に声帯結節やポリープ、声帯炎と言う異常ではなく、お医者様には「あなたの機能的な音域の問題」と指摘をされ、治療をする性質の物ではないと言われてしまい、途方に暮れてしまうと言うケースです。 炎症を起こしているわけではないので処方する薬もない、発声訓練で解決する以外方法はないと言う事です。 このケースは特にプロ・ボイス・ユーザーに多く、共通して言える事はストレス下で歌わなくては… 続きはこちら≫