リハーサル時にボイストレーナーは何をするのか?

ボイストレーナーのレッスンスタジオ以外での「現場仕事」と言ってもあまりピンと来ないかもしれません。
僕の場合も先輩ボイストレーナーの仕事に付きそって、ライブやレコーディングに行って勉強した経験もありません。
今日ここに書く事は、桜田ヒロキが「こんな事をやったら喜んでもらえるだろうな」と言う事をやっていった結果、仕事として成り立っていった事の紹介となります。

ウォーミングアップ&喉周りのストレッチ

本番前のウォーミングアップ方法」で書いたのでこちらをご覧下さい。
リハーサル前にボーカル・ウォーミングアップをに行います。
この後に待つモニターチェックで声が本番に近い状態で仕上がっている事が重要です。
ウォーミングアップをする事、ウォーミングアップの仕方に寄って歌声は変わりますし、それはアーティスト本人の歌いやすさにも大きく関わります。
※ライブのモニター環境とは、客席向けに作られた音響(カッコよい音優先)ではなく、アーティスト本人が歌いやすさを最優先した設定で作られた音です。

モニターチェックの対応

現在のライブでは、多くのアーティストがインイヤーモニター(イヤモニ)と言って、アーティスト本人の耳で型取ったカスタムメイドのイヤフォンを使います。
これを使う事によって外部の遮音が完璧に出来、アーティストの耳の中だけで音作りをする事が出来ます。
例えばマイクを通したアーティスト本人の声の音量や音質、リバーブの種類やリバーブの深さを好みにする事が出来ますし、ドラムだけ大きく、ベースを小さく、と言った事までオーダーする事が出来ます。
ただ、バリエーションが多すぎてどうするのがベストかわからなくなってしまう事もあるので、そこをアーティストとモニター・エンジニアの間で話をします。

またアーティスト本人が「声が詰まって聴こえる」と言ったフィードバックがある際にどの辺の周波数帯域が詰まって感じているのか、目安をモニター・エンジニアにアドバイスする事もあります。シンガー目線で具体案を提案するイメージですね。

被せ物のチェック

レコーディングではブレスが取れないフレーズでも何テイクかに分けて録音している事もあり、物理的にライブで完全再現が不可能な事や、難しい事があります。
どの部分を実際のライブで歌って、どの部分を録音した物を被せるのか選別や提案を行う事があります。

歌唱の難易度の高いところをピックアップ

リハーサル中、桜田ヒロキは本人の歌っている姿を見ながら、本人が使っているモニターの音、外音を切り替えながら両方聴きます。
そんな中で歌詞にメモを取りながら難易度の高い箇所、改めて練習が必要な箇所を書き出していきます。

本人の楽曲であっても、楽曲制作の時点でギリギリの高音域を攻めている事は多々ありますし、しばらく歌っていない楽曲の場合、歌いづらくなっている事も少なくありません。

フィードバックと解決方法の提案

リハーサル自体はリアルタイムでどんどん進んで行きますので、解決策の検討はリハーサルが終わった後、自分のスタジオや自宅に帰ってきてから録音の聴き返しを行い、解決策を考えます。

例えば、「音程が甘くなる箇所があった」と言っても原因は
•楽曲が一次的に転調している箇所だった
•メロディが発声的に苦手な音域だった
•母音が苦手な母音だった
•歌詞が沢山つまっている箇所だった
•か行、さ行の無声子音が当たっている箇所だった
など多岐にわたります。
スタッフやプロデューサーは「音程が甘い」までは判別出来ても、原因の解析や解決案までは提案出来ない事が多いのです。

エラー箇所を解析して、なるべく早くにアーティスト本人にLINEメッセージでフィードバックしつつ、レッスンで解決するためのトレーニングメニューを検討します。

まとめ

まだまだボイストレーナーがレコーディングやライブで活躍する場は少ないかもしれませんが、実際今日書いたようなプロセスを踏むとアーティストはボイストレーナーの事を「自分の歌や声の事を理解し、ケアしてくれるスタッフ」として認識してくれ、良い関係になる事が出来るのを経験しています。

ライブやリハーサル時にボイストレーナーが歌唱指導インストラクターとして呼んでいただけるのは、アーティスト以外に声や歌の事を任せられるプロフェッショナルと理解してもらえているからだと感じます。
しかしながら、このような機会がまだまだ少ないのであるなら、まだまだ現場でボイストレーナーが活躍出来るのではないかと思います。

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
米国Speech Level Singingにてアジア圏最高位レベル3.5(最高レベル5)を取得。2008〜2013年は教育管理ディレクターとして北アジアを統括。日本人唯一のインストラクターとしてデイブ・ストラウド氏(元SLS CEO)主宰のロサンゼルス合宿に抜擢。韓国ソウルやプサンでもセミナーを開催し、国際的に活動。
科学的根拠を重視し、英国Voice Care Centreでボーカルマッサージライセンスを取得。2022–2024年にニューヨーク大学Certificate in Vocology修了、Vocologistの資格を取得。
日本では「ハリウッド式ボイストレーニング」を提唱。科学と現場経験を融合させた独自メソッド。年間2,500回以上、延べ40,000回超のレッスン実績。指導した声は2,000名以上。
倖田來未、EXILE TRIBE、w-inds.などの全国ツアー帯同。舞台『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』主演・岩本照のトレーニング担当。
歌手の発声障害からの復帰支援。医療専門家との連携による、健康と芸術性を両立させるトレーニング。

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