ライブ、レコーディング前のボイス・ウォーミングアップでは何をするか?

歌っている方であれば歌唱において、ウォーミングアップを行う事がとても重要な事はご存じの通りでしょう。

オーストラリアのある学者によって行われた実験では歌手がウォーミングアップ前、そしてウォーミングアップ(25分間)後の歌唱(8小節)の評価を行いました。

評価項目は
・声の甘さ
・明るさ
・喉に感じるストレス
・ビブラート
・歌唱クオリティ
・トーンクオリティ(声色)
・発声技術における集中力
・自信の有無
・声の響き
・シンガーの内に感じる安心感・安定感
・声から聞こえる不安感
・声から聞こえる疲労感
など多岐にわたる項目を歌手本人6名。そして専門家8名の耳で確認すると言う方法で行いました。

結果は予想通り、全ての項目で歌手自身、専門家すべての評価がウォーミングアップ後に大きく向上しました。

この実験自体は歌手や専門家の知覚で行われましたが、この研究の全てに関わった人がウォーミングアップ後の歌唱評価が向上したのは、、、
まぁ当然と言えば当然ですね。(笑)

では桜田ヒロキはプロフェッショナルの歌手のライブ会場やレコーディングスタジオでウォーミングアップを行っていますが、どのような事を行っているのでしょうか?

首、肩、喉周りのストレッチ

首、肩などはセラピストやフィジカルトレーナーが行いますが、首の前側、喉周りのストレッチをお手伝いする事もあります。
首、肩と同様、喉周りの筋肉も凝り固まっていると必要な動きを充分に行う事が出来ず、結果として歌手は「声が出しづらい」と感じてしまいます。
桜田ヒロキは喉まわりの柔軟性を上げるストレッチをお手伝いします。

「どのように喉周りの筋肉を解せばよいか?」と質問される事がありますが、最も手軽なのはお風呂で首を洗う際に優しく喉をさすってあげると良いと思います。
首の前側は広頸筋で覆われていますが、この筋肉が凝ると喉頭自体を圧迫するため外側の筋肉を優しく解すのはとても効果的だと思います。


※2022年倖田來未ちゃんのツアー帯同時のツアースタッフの集合写真

発声練習のメニューについて

裏声の活性化
歌唱において裏声の活性化はとても重要です。
声帯は伸びる、縮む等のアクションによって音程を作っています。
特に歌唱音域では声帯を伸ばすと言う動きは非常に重要で、その動きを最もアクティブにする方法が裏声での歌唱と言われています。

地声の活性化
男性歌手の場合、地声の過剰な活性化は声帯を縮めるアクションを過剰に起こさせる可能性があり注意が必要ですが、
ポップスの女性歌手であれば地声の適度な活性化はとても重要になります。
音域は低い音域をハミングやリップバブル、ストロー発声、などを経て「あ母音」での歌唱になる事が多いです。

スムーズな行き来の強化
裏声〜地声のスムーズな行き来は歌唱において最も重要なウォーミングアップ方法と言えます。
例え地声をメインとした歌唱であっても高音部になれば声帯は薄く引き伸ばされます。

分厚い声帯(地声)〜その間くらい(ミックス)〜薄い声帯(頭声〜裏声)

地声をメインとした歌唱であっても、地声〜ミックスはほぼ絶対使う事になります。
過剰な地声は声にとってストレスになりますし、音程は下がる傾向になります。
これを起こさせないように、地声〜裏声のスムーズの移動は必ず行います。

俊敏性の向上
俊敏性の向上はビブラートや速い音程移動だけでなく、しなやかな音程移動は歌手の声を聴感上「声を豊かに聴かせる作用」がありますので、声が速く動けるように準備を行います。

響きの向上
男性の声楽家で言えば、「うたごえフォルマント」と言われ、3kHz帯域を狙って響くようにする技法を使います。別名クラスター・フォルマントと呼ばれます。
3kHz近辺に”響きを集中させる”のでこの様に呼ばれます。

ポップス系の歌手の場合、男女ともに3kHz帯に集中させず、3~10kHzの広い範囲を鳴らす方法を使います。アンクラスター・フォルマントと呼ばれ特定の帯域に響きを集中させないと言う事を意味しています。
この響きがいわゆる「マイクノリの良い声」「声量のある声」になりますので、この帯域を鳴らすようにしていきます。

この帯域を鳴らすようにするには、しばらくボイストレーニングのお手伝いをさせていただき、そもそもきちんとよく響く声を作り上げておく必要があります。(これはボイストレーニングで作る事が可能です)
その中で「良く声を響かせやすい」得意な音階や言葉を事前にピックアップして本番前に、「良く響く声」を作り上げていきます。

レッスンとウォーミングアップは似て非なるもの

歌手のウォーミングアップを行っている様子を観ると一見「レッスンをしてるのだな」と勘違いされてしまいがちです。
レッスンでもウォーミングアップでも音階練習を中心に行うからです。

しかし、レッスンの目的は声の機能を高めつつ、苦手項目を見つけそれを克服出来る事で、場合によっては声に負荷を掛けていきます。
技術向上が目的だからです。

ウォーミングアップでは歌手がストレスとなるような事はほぼ行いません。
ウォーミングアップの目的は歌手の現在持っている能力をギリギリの限界まで引き出す事を目的としているからです。

まとめ

今回のブログでは歌手のためのウォーミングアップについてを紹介しました。

一見、単純そうな事をしているように見える発声練習でも、実は多くの複雑な事を行っている事が分かってもらえればと言う思いで執筆しました。
「ヒロキ先生がいてくれて歌手のメンタルが良い状態で助かる」とスタッフの方達から言っていただく事もありますが、僕はメンタルコーチではないので、とにかく歌手が声の事で不安に感じる要素を減らす事を目標に仕事をしています。

結果的に歌手が声のストレスから解放されてメンタルが良い状態になってくれれば最高ですし、ボイストレーナーとして最高の仕事が出来たと感じる瞬間です。

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop

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