はじめに
歌っているときに「喉が詰まる」「高音で引っかかる」「声が重たい」と感じることはありませんか。
その原因のひとつが、舌骨周囲の筋群に生じる過緊張です。
舌骨は小さな骨ですが、顎・舌・喉頭をつなぐ重要な役割を持っています。ここに力みが生じると発声全体に大きな影響が広がり、機能性発声障害(MTD)とも関連して症状が強くなることがあります。
この繊細な部位を解放するための手技のひとつが、舌骨サーフ(Hyoid Surf)です。
舌骨とは?
舌骨は首の中央付近、下顎のすぐ下に位置するU字型の小さな骨です。
人体で唯一、他の骨と直接関節を持たず、筋肉と靭帯だけで支えられています。
- 舌を動かす舌骨上筋群(顎舌骨筋・顎二腹筋・舌骨舌筋など)
- 喉頭を支える舌骨下筋群(胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋・甲状舌骨筋など)
これらの筋が舌骨に付着し、舌・顎・喉頭をつなぐ要の役割を果たしています。
舌骨周囲筋が固まるリスク
舌骨周囲の筋肉が固まると、歌手にとって深刻な問題が起こります。
- ・喉頭が高い位置に固定され、高音が詰まりやすくなる
- ・舌の動きが制限され、発音や歌詞の明瞭度が下がる
- ・共鳴が妨げられ、息を無理に押し出すような発声になる
- ・声の慢性的な疲労感が強まり、回復が遅くなる
これらは機能性発声障害(MTD)の症状を悪化させる要因となり、歌唱や話声の自由を奪います。
舌骨サーフ(Hyoid Surf)の方法
舌骨サーフは、桜田がイギリスのVoice Care Centreで学んだ手技のひとつです。施術者がクライアントの横に立ち、舌骨の下方にある空間を優しく保持することから始めます。
- ・指の腹を上方に向けて舌骨の下縁を支える
- ・親指は反対方向から舌骨の上縁を保持する
- ・手首を軽く揺らすと舌骨が上下にサーフされるように動く
- ・指の位置を入れ替えれば、反対方向にも同様に揺らすことができる
舌骨に内側への圧をかけるのは危険で、損傷のリスクがあるため必ず上下方向の揺らしを行います。
舌骨サーフの効果
舌骨サーフによって得られる効果には次のようなものがあります。
- ・喉の詰まり感が軽減する
- ・機能性発声障害(MTD)の改善を補助する
- ・高音域での引っかかりが和らぐ
- ・声区の移行がスムーズになる土台が整う
- ・長時間の発声後の声の疲労感が軽くなる
- ・発声訓練と組み合わせることで声の持久力と安定性が向上する
歌手にとっては「喉が開いた」「声の通りが良くなった」と表現されることが多く、即時的な効果を感じやすいのが特徴です。
桜田のプロトコルにおける舌骨サーフ
桜田のセッションでは舌骨サーフを以下の流れの中で活用します。
- 発声法の評価
- エクササイズを通じて声区移行や発声の癖を確認し、必要に応じて軽く調整する。
- 舌骨サーフを含むボーカルマッサージ
- 舌骨を上下にサーフし、喉頭や舌の関係を解放する。
- 喉の詰まりや力みを解除し、声を出しやすい状態に整える。
- リラックスした喉で再調整
- 緊張が抜けた状態で発声訓練を行い、共鳴や声区移行を再学習する。
- 声の安定性や表現力が高まり、持久力が増す。
まとめ
舌骨は声の中継点であり、その周囲筋が固まると機能性発声障害(MTD)のリスクを高め、歌唱や話声に悪影響を及ぼします。
舌骨サーフ(Hyoid Surf)は舌骨を上下に揺らすことで筋群を解放し、喉頭と舌の動きを自由にします。
喉の詰まり感や高音での引っかかりを和らげ、声を軽く自由にする下地を作ります。
さらに発声訓練と組み合わせることで、歌手や機能性発声障害(MTD)に悩む方にとって「使える声」を効率的に取り戻すことができます。
舌骨サーフは小さな揺らしに見えますが、声全体を解放し、舞台や日常での声の自由を取り戻すための大きな一歩になるのです。
ボーカルマッサージについてはこちら
サーカム・ラリンジャル― 声を過緊張から解放するための科学と実践
歌声の機能回復を目的としたボイストレーニング・発声調整はこちらをどうぞ
この記事を書いた人

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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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