ボーカルエクササイズは単なるウォーミングアップ?

ボーカルエクササイズはなぜ重要なのか?

ボーカルエクササイズ、具体的に音階を使ったエクササイズはなぜ必要なのかを理解していますか?
音階を使った発声練習を単なるウォーミングアップと考えているボイストレーナーも少なくありませんが、桜田ヒロキはどのような観点でボーカルエクササイズを行っているのかを解説します。

ウォーミングアップのためだけと考えていないですか?

ボーカルエクササイズにはウォーミングアップという側面もあります。

ただ、それには
①歌声の評価法の理解
②エクササイズの特性の理解
③エクササイズに対して、その声がどのように反応するかの理解
を熟知しておく必要があります。

ライブやレコーディング前にウォーミングアップを任されることがありますが、それはクライアントとの関係性や、その声とエクササイズに対するリアクションをお互いに熟知しておくことが前提条件になります。
極端な話ですが、初対面のクライアントのレコーディングやライブと言う状況では、どのように声が反応するのか確信が持てずあまりお力になれない可能性があると言う事です。

問題の切り分け、トレーニングの切り分けを行える

では、ボーカルエクササイズはボイストレーニングにおいてどのように効果を最大化するのでしょうか?

例えば、特定の楽曲のメロディの高音部分の音程が下がりがちだったとしましょう。
この場合、メロディパターンを分析します。

・ どの音が下がっているのか?
・ 問題の音に達するまでのメロディはどのようなパターンか?(上昇か?下降か?等)
・ 問題の音は伸ばす音なのか?一瞬当たる音なのか?
・ 問題の音の母音と子音の特性は?(強く出やすい母音+アタックのつきやすい子音等)
・ 問題の音に至るまでの音で小さなエラーを起こしていないか?
・ その原因は何か?

それに対してどのようにボーカルエクササイズを設計するのか検討を行います。

・ メロディはそのまま、子音と母音を変更する
・ 一時的に苦手な音域を避けるためにキーを変更する(上げる場合も少なくない)
・ キーは変更せずに一部のメロディを変更する(フェイクを入れるようなイメージ)
・ メロディを歌う前に、声に合わせたエクササイズを設計して歌いやすい状態を作る

音階1つを取ってもこのようなアイデアがボーカルエクササイズには詰まっています

ボーカルエクササイズはタスクの難易度を管理しやすい

一言で「メロディを歌う」と言っても、実はこのように要素を分解することができます。

① 伸ばすタイプで、② 上昇のメロディで、③ 母音が日本語で5母音、④ 子音がたくさん含まれている
このように「この楽曲のこの部分が苦手」と言っても、実はごく簡単に説明しても4要素ありました。
これらの中から苦手要素を特定していきます。

ボーカルエクササイズの組み立てが出来れば、
・ ボーカルエクササイズは音型を設計できる(上昇・下降)
・ ボーカルエクササイズは母音・子音を設計できる
・ テンポを設計できる
このように自由度が広がります。

ボーカルエクササイズは苦手要素の分析ができれば、このように設計し直すことができます。
特定の要素をトレーニングすることができるのです。

もちろん、問題があまりにも多岐にわたる場合は楽曲のキー設定の変更はもちろん、その楽曲が練習曲として本当に適切かどうかを検討するアドバイスをすることもできます。
一言で「この曲はあなたには難しすぎる」と言っても、クライアントを説得することは難しいと思います。
ですが、このように理由を説明した上で「難易度の低い別の練習曲を数曲練習してからこの曲に戻ってこよう」と論理的に説明すれば、クライアントの多くはボイストレーナーを信頼してくれます。

いかがでしたか?

このように、ボーカルエクササイズは歌を評価する際の問題の切り分けを行う事はもちろん、ボイストレーニングの設計を積極的に行うことができます。
これを書き出したきっかけはあるボイトレスクールの宣伝動画で「通常のスクールでは音階を使った発声練習が主体で、歌の練習は少ない。つまりあなたはウォーミングアップのあめにスクールに通ってしまっています。私のスクールでは、、、」と言うのを観てからです。

恐らくボーカルエクササイズ=ウォーミングアップと考えているボイストレーナーの楽曲の指導レベルは、このブログに書いてある事を当たり前のように考えられていなければ、まぁその程度のものだと思いますが、、、。
桜田ヒロキはボイストレーナーとしてボーカルエクササイズの設計は決して機械的なものではなく、芸術性の高いものであると考えています。

このような考え方を出来るボイストレーナーが増えていく事を心から願っています。

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この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
米国Speech Level Singingにてアジア圏最高位レベル3.5(最高レベル5)を取得。2008〜2013年は教育管理ディレクターとして北アジアを統括。日本人唯一のインストラクターとしてデイブ・ストラウド氏(元SLS CEO)主宰のロサンゼルス合宿に抜擢。韓国ソウルやプサンでもセミナーを開催し、国際的に活動。
科学的根拠を重視し、英国Voice Care Centreでボーカルマッサージライセンスを取得。2022–2024年にニューヨーク大学Certificate in Vocology修了、Vocologistの資格を取得。
日本では「ハリウッド式ボイストレーニング」を提唱。科学と現場経験を融合させた独自メソッド。年間2,500回以上、延べ40,000回超のレッスン実績。指導した声は2,000名以上。
倖田來未、EXILE TRIBE、w-inds.などの全国ツアー帯同。舞台『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』主演・岩本照のトレーニング担当。
歌手の発声障害からの復帰支援。医療専門家との連携による、健康と芸術性を両立させるトレーニング。

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