体が年齢を重ねると共に変化をするのと同様に、歌手の声も加齢に伴って変化が起こります。
その変化に柔軟に対応出来れば大きな問題は起こりませんが、上手に変化に対応出来ず「年齢を重ねて歌えなくなってしまった」「下手になってしまった」と言う訴えを日々受けます。
もちろん年齢によって身体が変化し、その身体を上手に操作出来なくなる事は「下手になってしまった」と言う事と類似しているとも言えますが、年齢の時々に合わせた発声法を微調整していく事が大切です。
今回は具体的に加齢に伴い、どのように身体変化していくのかを書いてます。
喉頭の変化
軟骨の骨化
喉頭は軟骨組織ですが加齢と供に柔軟性を失い骨化していきます。
骨折リスクも高まります。
筋コントロールの低下
他の身体の部位と同じように筋力が衰えます。
それにより音色のコントロール、ピッチのコントロールが難しくなり高音域が失われやすくなります。
喉頭が下がる
喉頭は筋肉などで吊られている組織です。
筋力の低下により喉頭が下がってきます。
喉頭が下がると音響的に若年時にくらべ低音の共鳴の方が得意になります。
結果的に話し声含めて低音化すると考えられます。
声帯の変化
声帯の断面。幼年期ほど水分が多く、層が確立していない。老年期は粘膜層の潤いが低い
声帯が薄くなる、萎縮化
筋力の低下により、声帯は薄くなります。
結果的に質量が減ります。これにより大きな声を出すことが難しくなります。
上皮層の水分量の低下
声帯の上皮層の水分が減る事により滑らかな振動をしづらくなります。
これにより声が嗄れやすくなります。
声帯の硬化
声帯そのものの柔軟性が失われます。
これにより声が嗄れやすくなります。
声門の閉鎖の緩み
筋力の低下や声帯そのものの柔軟性の低下により声門の閉鎖が難しくなります。
これが原因で声量の低下、息漏れによる嗄声が起こりやすくなります。
いかがでしたか?
今回は喉頭や声帯など喉周りのお話でした。
この他にも呼吸器、筋力、神経伝達等が加齢により影響を受けますので、次回はこれらに触れていきます。
もしかして読んでいて絶望された方も少なくないかもしれませんね・・・。(笑)
しかし適切なトレーニングや声の衛生管理により、声の劣化の程度を下げ、技術向上により若い時よりも良い歌が歌える、若い時よりもコントロールが上手になると言う事は珍しい事ではありません。
このシリーズでは加齢により起こる事だけではなく、加齢に対しての対処法もどんどん紹介していきますので、お楽しみに!
この記事を書いた人

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米国Speech Level Singingにてアジア圏最高位レベル3.5(最高レベル5)を取得。2008〜2013年は教育管理ディレクターとして北アジアを統括。日本人唯一のインストラクターとしてデイブ・ストラウド氏(元SLS CEO)主宰のロサンゼルス合宿に抜擢。韓国ソウルやプサンでもセミナーを開催し、国際的に活動。
科学的根拠を重視し、英国Voice Care Centreでボーカルマッサージライセンスを取得。2022–2024年にニューヨーク大学Certificate in Vocology修了、Vocologistの資格を取得。
日本では「ハリウッド式ボイストレーニング」を提唱。科学と現場経験を融合させた独自メソッド。年間2,500回以上、延べ40,000回超のレッスン実績。指導した声は2,000名以上。
倖田來未、EXILE TRIBE、w-inds.などの全国ツアー帯同。舞台『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』主演・岩本照のトレーニング担当。
歌手の発声障害からの復帰支援。医療専門家との連携による、健康と芸術性を両立させるトレーニング。
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