こんな時は休める? SOVTでリハビリする?チェックリスト

第3話 SOVTを使うべきか、声を休めるべきか ― 状態判断のための簡易チェックリスト ―

第1話 SOVTで出来る事と出来ない事を考えてみよう!
第2話 こんな時はSOVTですらやったらダメ!
では、SOVT(Semi-Occluded Vocal Tract)が万能な練習方法ではなく、声の健康状態によっては有効に働かない場合があることを説明してきました。

特に、炎症や浮腫がある状態では、SOVTが声帯振動を助けるどころか、条件によっては逆に不利に働く可能性がある、という点を整理しました。
では実際に、今の自分の声の状態では、SOVTを使うべきなのでしょうか。それとも、声を休めることを優先すべきなのでしょうか?
今回の第3話では、その判断の目安となる簡易チェックリストを提示します。


このチェックリストは、診断を目的としたものではありません。
あくまで、今が「トレーニングのフェーズ」なのか、「休養・回復を最優先すべきフェーズ」なのかを考えるための材料です。
判断に迷ったときに、立ち止まるための材料として使ってくれれば幸いです。

このチェックリストの使い方

このチェックリストの使い方はシンプルです。以下の項目を読み、深く考えすぎず、直感的に当てはまるかどうかを確認してください。

SOVTを使ってもよい可能性がある状態

以下は、比較的軽度の不調や機能的な問題が疑われるケースです。

・声に違和感はあるが、話し声や歌声そのものは一応出ている
・裏声は不安定だが、完全に消失しているわけではない
・声を出すときに、明確な痛みやヒリつきはない
・時間帯や軽いウォームアップによって、声の状態が多少変化する
・軽いSOVT(ストロー発声、リップロールなど)を行うと、声が少し楽に感じることがある
・声のかすれや嗄声はあるが、常に強く続いているわけではない

これらに当てはまる場合、声帯振動そのものが完全に破綻している可能性は高くありません。軽度の疲労や過緊張、呼気の使い過ぎなど、機能的な要素が主である可能性が考えられます。
このような状態では、SOVTを「声を良くする練習」としてではなく、「悪化させないためのリハビリの補助、環境調整」として、限定的に用いる余地があります。短時間・低負荷で、クールダウン的に使うという意識が重要になります。

声の休息・医師の診察を優先すべき状態

以下は、炎症や浮腫、あるいは振動条件の破綻が疑われるケースです。

・SOVTでの裏声がほぼ完全に出ない、あるいは無音になる
・声を出すと、痛み、ヒリヒリ感、刺すような感覚がある
・話し声だけでもすぐに疲れる、または悪化する
・SOVTを行うと、声がさらに出にくくなる、ザラつきが増す
・ピッチが安定せず、声が引っかかる感じが強い
・前日から急に声の状態が変わった
・直前に叫んだ、長時間酷使した、大きな負荷をかけた記憶がある

これらに複数当てはまる場合、声帯振動を開始・維持するための条件そのものが崩れている可能性があります。この段階では、SOVTを含む発声刺激そのものが、回復を妨げてしまうことがあります。
特に、裏声が完全に消失している状態は、単なる技術的問題ではなく、振動条件の問題である可能性が高くなります。
このような場合は、「やり方を工夫すれば何とかなる」と考えるよりも、発声練習を一旦止め、声の休息を最優先にする判断が重要です。

数日休息をおいてみて、回復しない場合は音声外来の受診をおすすめします。(特にプロボイスユーザーの場合は強く診療をおすすめします)

判断に迷ったときの考え方

チェックリストを見ても判断に迷う場合は、次の視点を参考にしてください。
・SOVTを行ったあと、声は楽になるか、それとも重くなるか
・翌日、声の状態は改善しているか、悪化しているか
・「出そうとして頑張っている感覚」が強くなっていないか

SOVTは、声を守るためのツールですが、無理に続けることで「出そうとする癖」を強めてしまう場合もあります。
声が出ないときに練習量を増やすことが、必ずしも正解とは限りません。

まとめ:SOVTを「やらない判断」も声を守る選択

SOVTは、正しく使えば非常に有用な手法です。しかし、それは「いつでも」「どんな状態でも」使える万能な方法という意味ではありません。
運動学習的な観点から見れば、SOVTには一定の価値が期待できる場面があります。
一方で、強い炎症や浮腫が疑われる状態では、声を休めること、そして医師の診察を受けて指示を仰ぐことが、何よりも優先されます。

状況によっては、SOVTを行うこと自体が、声にとってデメリットになる場合もあります。
そのことを理解したうえで、「今はやらない」という判断ができることは、声を長く守るための重要なスキルです。
SOVTを使うかどうかではなく、今がトレーニングのフェーズなのか、回復を最優先すべきフェーズなのかを見極めること。この判断力こそが、声の問題と長く向き合っていくための、最も現実的で安全なアプローチだと思います。

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この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
米国Speech Level Singingにてアジア圏最高位レベル3.5(最高レベル5)を取得。2008〜2013年は教育管理ディレクターとして北アジアを統括。日本人唯一のインストラクターとしてデイブ・ストラウド氏(元SLS CEO)主宰のロサンゼルス合宿に抜擢。韓国ソウルやプサンでもセミナーを開催し、国際的に活動。
科学的根拠を重視し、英国Voice Care Centreでボーカルマッサージライセンスを取得。2022–2024年にニューヨーク大学Certificate in Vocology修了、Vocologistの資格を取得。
日本では「ハリウッド式ボイストレーニング」を提唱。科学と現場経験を融合させた独自メソッド。年間2,500回以上、延べ40,000回超のレッスン実績。指導した声は2,000名以上。
倖田來未、EXILE TRIBE、w-inds.などの全国ツアー帯同。舞台『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』主演・岩本照のトレーニング担当。
歌手の発声障害からの復帰支援。医療専門家との連携による、健康と芸術性を両立させるトレーニング。

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