歌うと苦しい!過緊張発声の原因と解消法

「歌うと喉が痛くなる・・・」
「歌うと喉の疲労が激しい・・・」
そんな風に感じた事がある方は多いと思います。
実際、レッスンにいらっしゃる生徒さんの半数以上はこの悩みを解消する事を希望しています。

今回は、そんな悩みを解決していきましょう!

歌うと喉が疲れるのは何故?

今回動画に出て頂いた生徒さんは、“大きな声が出ないのに喉が疲れる”という悩みを持っています。
歌うと喉が痛む原因は、喉のどこかの部位の“過緊張”によるものと考えられます。

ある音程の声を出すために、本来使われるべき筋肉が使われていない場合、どこか他の筋肉で補填をする必要が出来ます。
しかし代替利用される筋肉は本来、必要な筋肉の動きは出来ないので、必要以上に働く必要があります。

それが複合的に
「筋肉Aが動かないから筋肉Bで補填。筋肉Bだけでは間に合わないので、筋肉C,Dで補填。。。」と悪循環が生まれてしまうわけです。

ボイストレーナーの仕事は
「筋肉Aだけ動いてくれれば他の筋肉はリラックス出来るよね!筋肉A!ちゃんと働こう!」とトレーニングを通じて働きかけてあげる事です。

日常生活に置き換えてみると、
右足に痛みを感じたとします。
すると、右足に負担を掛けないようにするために左足に重心を変えて歩く事になりそうですね。
これをしばらく続けると、体の左側にコリや痛みを感じる方は少なくないと思います。
体の右側をフォローするために左側のどこかをオーバーワークさせてしまったのが原因かもしれません。

こう言った「バランスの悪さによって体に負担がかかる」と言うのは発声関連筋でも起こる事と考えられます。

過緊張性発声障害と言う病気もあります

話し声ですら発声が苦しく感じると言う場合、過緊張性発声障害発声障害(Muscle Tension Dysphonia)と診断を受ける事があります。


※過緊張性発声障害の方の声帯写真

こちらの写真は声帯を狙って撮影された物ですが、見ると周りの筋肉に覆われてしまい、ほとんど声帯が隠れてしまっています。

過緊張性発声障害発声障害(MTD)の原因の1つに声帯炎や喉頭炎。逆流性食道炎があるとされています。
これが原因で声帯が腫れた結果、声帯の運動性が悪くなり、話したり歌ったりするのに声帯を強く閉じ、強い息を当ててなんとか振動させます。
それが癖となってしまい、炎症がさった後も声帯を強烈な力で閉じる事を行い続けてしまうそうです。

風邪などで声が嗄れてしまった後、声帯の炎症は治っているのに出しにくいのであれば、過緊張性発声障害には至らないにしても、この状態が緩やかに起こっている可能性が考えられそうです。

正にこれが原因と考えられる歌手のリハビリ、トレーニングに携わった事がありますが、癖を塗り替えていく作業なので、工夫と根気が必要です。
(今のところ、ほとんどのケースで改善させる事は出来ています)

“過緊張”をほぐすボイストレーニングをいくつか紹介します

それでは実際に、どんなトレーニング、ボーカル・セラピーが考えられるのでしょうか?

裏声〜地声に繋げるトレーニング

地声と比べると、裏声は声帯の閉鎖時間が短く、声帯の閉じも緩やかと考えられます。

参考【発声状態による声門の閉鎖割合】
裏声→ 30%〜35%左右の声帯が合わさる(65%〜70%は声帯は圧着していない)
健康的な発声→ 約50%左右の声帯が合わさる
圧迫されて過緊張な発声→ 65%左右の声帯が合わさる

この裏声の声門の閉鎖割合の低さを逆手にとり、過緊張な地声の声門の圧迫を緩やかにする有効な方法と考えられます。

外部から過緊張をほぐす

・肩を回しながら歌う

肩周りを前後に回転させながら歌う方法です。
過緊張発声をする多くの方が肩を内側に入れた、いわゆる猫背状態だったと言う研究があると聞いた事があります。
動画では猫背とは逆の方向に肩を回していただいています。

・過緊張の原因となっている筋肉(首の後ろの付け根側)を軽く抑えながら歌う

なんらかの影響により頭板状筋に力が入ると、対で運動をしている胸鎖乳突筋に力が入り、発声時に苦しい思いをする事があります。
頭板状筋、胸鎖乳突筋共に発声を行うために使われる筋肉ではないためです。
頭板状筋は胸鎖乳突筋と拮抗関係にあるため、この動きを制限する事によって胸鎖乳突筋の働きを減らすようにしています。


※赤い筋肉が胸鎖乳突筋

・左右差を矯正させる

左右差でインバランスが起こっている可能性があります。
まずは首を左側に向けて歌う、右側も同様に歌ってみましょう。

左右どちらかを向いて発声がしやすい場合、
発声しやすい方向で発声して感覚を掴む → 正面を向いて発声を行う
を行い、徐々に快適な発声状態を声に覚えさせていきます。

思い切った裏声の練習

・裏声を使って、「ポウ」と発声する

正しい音程で反射的な勢いをつけて裏声を出します。
マイケル・ジャクソンが歌の合間に良く使う、「ホウ」、「ポウ」などの声をイメージして出すと分かりやすいと思います。
痛みや緊張などは感じず、自ら出す歌声や身体から気持ち良い感覚があると思います。
動画中で、「反射的に裏声を出して!」と言っているのは、生徒さんが身構えてから裏声を出す仕草を感じたからです。
身構える事により、首周りに過度な緊張を招く可能性が高いため、出来るだけ反射的に出すようにと指示しています。

※注意 “鼻声“は歌声のパワーを減らしてしまう

鼻声はとても特徴的で、それをあえて特徴として使っている歌手の方はいますが、声量のパワーとして考えると、それは得策ではありません。
アンチ・フォルマントと言い、共鳴腔が持つ周波数特性の増幅関数を負に働かせてしまい、声のエネルギーを減少させてしまいます。

〜「リラックスしなきゃ!」と考えすぎるのは必ずしも良くない!〜

「喉が痛いから、リラックスをして歌おう!」
という言葉に惑わされている方も多いと思いますが、実際にリラックスをして必要な筋肉まで力を抜いてしまうと声は出ませんし、それが過緊張の原因となる事もあります。

まとめ

この記事で1番伝えたいポイントは、
① “必要な筋肉“と“不必要な筋肉“を分別する
② 必要な筋肉だけを使うためのトレーニングをする
ということです。

今回は、歌うと喉が痛くなってしまう原因と対処法についてお話ししました。
喉が痛くなる、疲労が早い原因は、不必要な筋肉の過剰な働きから引き起こる事が多いのです。
動画の生徒さんは、レッスンが進むにつれて、だんだん声が伸びるような音に変わっていきましたよね!

今回の生徒さんによるエクササイズとしてあげられたのは、3つ。

・地声をしっかり出す練習
・鼻声の矯正
・反射的に裏声を出す練習
といった内容です!

歌うのに邪魔しているものを取り除いてあげることによって、ラクな発声に繋がります。
練習方法や改善点は、個人差があるので、「絶対これです!」とは、残念ながら言い切れません。
しかし、ご自身に合う発声方法を身につければ、あなたの声は見違えるように変わります。

私たちは、個人に合ったレッスンやサポートをするので、今回の内容はあくまで一例に過ぎません。
可能であれば桜田ヒロキが発声状態の評価(アセスメント)を行えれば、考えられる原因と対処方法をご提案させていただきます。

声が出しにくくなった!原因を探る
歌い声を「取り戻すボイストレーニング」ボーカルRe-Balanceはこちら

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop

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