どちら派?2つのベルティングボイスを比較してみよう

ベルティング発声法(=力強いチェストボイスで高音を出す技術)に憧れている方、多いのではないでしょうか?
しかし、ベルティング発声法は上級者向けのテクニックなので、身につけるのは至難のわざです。

例えば、イディーナ・メンゼル(Idena Menzel)の歌声を聴くと、
「さすがにこんな風に歌える自信はない!」
と思う方も多いのではないでしょうか?

しかし、ベルティングボイスは持ち前の声の種類によって音色がすごく変わるので、この動画をご覧になった皆さん!
“自分には出せない“なんて決めつけないで下さいね!
そこで今回は、世界的に基準にされているブロードウェイのベルティング発声法を2つご紹介していきます!

2つの歌声を聴き比べてみましょう

お題にする曲は、『Live For The One I Love』という曲です。
お2人とも、同じキーのB♭メジャーで歌っています。

【Celine Dion(セリーヌ・ディオン】

【Tina Arena(ティナ・アリーナ)】

2つの歌声を聴いてみて、どう感じましたか?

同じ曲でも、違う曲を歌っているかのように聴こえた方もいるかもしれません。
あなたはどちらの歌声が好きだったでしょうか?
2人とも高度なベルティング発声をしています。
では、どのように歌声が違うのかを解説していきたいと思います。

Celine Dion(セリーヌ・ディオン)について

セリーヌは、パワフルな地声で、高音をバシッと当てて歌いますよね。
しかし、ティナと比べると、セリーヌの方がやや声が低いので、B♭4(シ♭)以上の音域を技術的に歌うのは負担が大きいのでは?と考えます。
例えば、高音への上り道が坂道だったとしたら、ティナは軽自動車、セリーヌは大きめのバンで昇ると考えれば分かりやすいでしょうか?
そうなると、セリーヌの方がエンジンへの負担が大きくなりそうですよね。

しかし、この負荷や緊張感がよき調味料となり、人々に感動を与えることが非常に多いのです。
まるで芸術は魔法の様なものですね。

Tina Arenaについて

ティナは、特別と言って良いほどのソプラノ歌手(高音声種類)だと考えられます。
あなたは、彼女の声の軽やかさや柔らかさ、スピード感を聴きとることが出来ましたか?

Celineの発声する母音は若干ぶれている?

先ほどご紹介した音源は、桜田が所属していたメソッドの団体Speech Level Singingでよく聴き比べられていたものです。

そこでは、
「Celineは母音がぶれていて、発声的に正しくない。Tinaは正しい発声をしている」
といった説明もありました。

例えば、セリーヌは、away(アウェイ)という単語を(アワイ)に近い音で発音しています。
これは、母音の純化を求めるボーカル・メソッドでは嫌がられる発声法になります。
しかし、母音の純化が求められる音楽分野は、声楽や一部ののミュージカルに限られたものです。
ポピュラー音楽の世界では、歌手の個を尊重した母音を求められるので、一概に間違った発声法だとは言い難いものです。

でもやっぱり、目の前で聴くことが1番!

あくまで動画の音楽は、スタジオでレコーディングされたものであり、実際に生の歌を聴くと、また違った印象を受けると可能性があります。

Tinaに関しては、実際の声はレコーディングバージョンより軽やかで細い可能性が高いと考えられます。
マイクの種類や、E Q(イコライザー)によった中低音域の周波数帯域を持ち上げて、声を膨らませたり、コンプレッサーによった声に厚みをつける演出が施されていたりする可能性もあるでしょう。

Celineの方は、叫び声に近い発声を、コンプレッサーで音量を抑えて、中高音域をE Q(イコライザー)で持ち上げて、声がスカッと軽やかに聞こえるような演出がされている可能性があります。

要するに、音楽制作では、声の種類や発声法の悪いところを隠したり、本来の音に色々なお化粧をして完成品として作っているものです。
だから、録音の声が全てだと思わずに、実際の声を聴いてみることがとても大切なことです。

では、続いてはベルティングボイスについてのおさらいをしていきましょう。

ベルティングとシャウト(叫び声)って違うの?

“ベルティング発声“と聞くと、力強いシャウト(叫んだような声)だと思い込んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
現代では、シャウトを使った音楽的表現も多くあります。

実際にみていただいた動画にも、イディーナ・メンゼル(Idina Menzel)は終盤の一声のD♭に関しては、シャウトに近い声であったと感じた方もいらっしゃると思います。
しかし、ここで注意して欲しいポイントは、ベルティング発声は、あくまで“音楽的表現”の一つであります。
つまり、“耳が痛くなるような叫び声”とは違うものです。
そこで、正しいベルティング発声や、間違ったベルティングについてどの様な特徴があるのか、これからお話ししていこうとおもいます。

良いベルティング発声法とは?

・鮮明でクリアな音
・音量の変化をスムーズに行うことができる
・聴き心地がとても良く、うるさいと感じない
・ビブラートをかけられる
・力強い高音を長く続けることができる
・部屋が響く、共鳴する 
・喉や身体に故障やダメージを負ってしまう

耳が痛くなるような『叫び声』ってどんなもの?

・全身に力を込めた大きな声(聴いていてうるさいと感じる音)
・音のダイナミクスがない
・聴いていて不快感を感じる
・喉仏が急激に上がってしまう
・力強い高音を伸ばすことが出来ない
・喉や体に故障やダメージを負ってしまう

こういった良い声と悪い声をしっかり頭に入れて、耳を養っていきましょう。

最後になりますが

今回は、大物歌手の2人を例に、ベルティングボイスについて解説をしていきました。
一言でベルティングボイスと言っても、色々な声や個性があるということです。

余談ですが、10名の方に質問をしました。
「Celine DionとTina Arenaの歌声、どちらが好みですか?」
と聞いたところ、7名がCline、3名がTinaと答えました。

たとえ正しい発声とは言われてなくても、人の心に響く歌というものはまた違うのかもしれません。
ルールに縛られすぎず、特に特定のヴォーカルメソッドで称えられるだけの声ではなく、“あなたの声”に合ったベルティングボイスを追求してみてくださいね。

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop