音域の本当の見方 — VRPが教える“使える声

ブログ「オーディションでの音域の欄。あなたはどう書く?」が大変好評でしたので、今回はさらに専門性を高めた視点からお話しします。

テーマは「VRP(Voice Range Profile)」
単なる音域が「ここから、ここまで」では見えてこない、本当に使える声の評価方法について解説します。

オーディションの音域欄、本当に意味がある?

多くのオーディション用紙には「音域」の記入欄があります。
例:地声はG3〜E5、裏声は…といった具合です。
しかし、この数字だけでその人の歌唱力や適性を正確に判断できるでしょうか?

音楽ジャンル(クラシックかCCMか)、メロディのパターン、テッシトゥーラ(楽曲中でよく使う音域)、発音や歌詞の母音、声質の方向性など、影響する要素は非常に多岐にわたります。
そのため、単に「地声でどこまで出る」「裏声でどこまで出る」と書くだけでは、本当の音域は見えてきません。
賭けても良いですが、審査員はこの欄を大した指標にならない事も分かっていると思います。(笑)

現実的な対応(少しだけ皮肉を込めて)

とはいえ、応募用紙に空欄は許されません。
「自信がないから控えめに…」と書くよりも、完璧な声でなくても「地声ではここまで出る」「裏声ではここまで出る」と記入しておくほうが良いでしょう。
オーディションでは「現時点での最大値」を書くことで、審査員が可能性を感じるケースもあるからです。
もっとも、その数値が本番で役立つかどうかは…また別の話なので、書いた音域は歌える事を目指して練習をしましょう。

VRP(Voice Range Profile)という評価法

声の評価をより正確に行う方法のひとつがVRP(Voice Range Profile)です。
これは、音域(基本周波数 F₀)と音圧レベル(SPL)を同時に測定し、グラフ化する手法です。
VRPでは以下の2つの範囲を区別します。

生理的範囲(Physiologic Range)
出せる限界の高さと低さ。声質や音色は問わず、声が出せればOK。
例:叫び声や息漏れ声、かすれ声も含む。

有用範囲(Useful Range)
音質と音量がコントロールされ、音楽的に使用可能な範囲。
音と音の間で音質が一定し、連続的に歌えることが条件。

VRPが教えてくれること

VRPを使うと、単なる「音域」以上の情報が得られます。

例えば…
* どの高さで最も楽に大きな声が出せるか
* どの高さが音量的に弱点か
* 声のダイナミックレンジ(最小音量〜最大音量の幅)がどれくらいあるか

これらはオーディションやレパートリー選びだけでなく、トレーニングの方向性を決める上でも非常に有効です。

まとめ

オーディション用紙の音域欄は、あくまで簡易的な指標です。
本当に「使える声」を示すには、専門的な計測や評価が必要です。
そして、専門家の視点から言えば、音域の広さよりも「音域内でどれだけ自在に表現できるか」が最終的な価値になります。

オーディション審査の音域記入欄を検討してみた

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
米国Speech Level Singingにてアジア圏最高位レベル3.5(最高レベル5)を取得。2008〜2013年は教育管理ディレクターとして北アジアを統括。日本人唯一のインストラクターとしてデイブ・ストラウド氏(元SLS CEO)主宰のロサンゼルス合宿に抜擢。韓国ソウルやプサンでもセミナーを開催し、国際的に活動。
科学的根拠を重視し、英国Voice Care Centreでボーカルマッサージライセンスを取得。2022–2024年にニューヨーク大学Certificate in Vocology修了、Vocologistの資格を取得。
日本では「ハリウッド式ボイストレーニング」を提唱。科学と現場経験を融合させた独自メソッド。年間2,500回以上、延べ40,000回超のレッスン実績。指導した声は2,000名以上。
倖田來未、EXILE TRIBE、w-inds.などの全国ツアー帯同。舞台『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』主演・岩本照のトレーニング担当。
歌手の発声障害からの復帰支援。医療専門家との連携による、健康と芸術性を両立させるトレーニング。

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