呼吸のメカニズム 肺の容量について

声を出すのにあたり声帯の原動力となる呼気は非常に重要な役割を果たします。
今回は呼吸のメカニズムを紹介します。

肺は健康な成人で5〜6リットル程度の容積を持ちます。
この図はその容量をどのように換気しているのかを示した図になります。

一回換気量 (Tidal Volome)

グラフの中腹で小さく上下している部分です。
主に横隔膜を使った呼吸とされています。
これはTidal Volumeと呼ばれ、リラックスをしている時、睡眠時の呼吸になります。
約500ml程度、吸って吐いてを繰り返します。
会話程度の発声、徒歩程度の運動が始まった途端に500mlの容量では息が足りなくなるため、次の容量に移ります。
呼気時には主に肺が元のサイズに戻ろうとする弾性と横隔膜のリラックスで行います。


※横隔膜は吸気時に縮む(筋肉に力が入る)呼気の際には緩みます。

吸気予備量 (Inspiratory Reserve Volome)

会話をする、運動をする。そして歌を歌う時にはこの容量をフル活用します。
この時に使える息の量は3000mlくらい。
主に胸郭を使った呼吸で、このInspiratory Reserve volomeは歌手が最も重要とする容量になります。
歌唱ではTidal Volome(500ml)+Inspiratory Reserve volome(3000ml)の合計3.5リットルを中心に使用します。
呼気時には主に肺が元のサイズに戻ろうとする弾性と横隔膜のリラックスで行うため、筋力的に胸郭を絞る必要はありません。
言い方を変えれば「横隔膜の下降+胸郭の拡がり」で行うのが、歌手にとって最も親切な呼吸法と考えられます。


※胸郭の図

呼気予備量 (Expiratory Reserve Volume)

今度は胸郭を絞る事によって事も息を吐く事は出来ます。
グラフの緑側です。使える容量は1500ml程度。
この容量を使うためには胸郭を筋力的に絞る必要があります。
特にグラフの下側に近づくにつれて胸郭を緊張させるだけではなく、肩や首にも力みが出ます。
グラフの下側を使おうとすると、ほとんど歌唱には耐えられない声色になっています。

残容量 (Residual Volume)

肺が絞り切れない残容量になります。
成人で1000mlくらいとされています。
この容量は加齢と共に増えていきます。
言い方を変えれば年齢と共に有効活用出来る息の容量は減っていきます。
ただし、有酸素運動や筋力トレーニングを行う事によりこの進行を緩やかにする事は出来ます。実際に多くの研究でもそれは証明されています。

実際の歌唱ではどのように呼吸する?

求められる声量によって呼吸の仕方、息の取り込む量は変わると考えられます。

声量を出すためには強い声門下圧(声帯の下に作られる圧力)が求められるため、最も大きな声で歌う必要のあるオペラ歌手はInspiratory Reserve Volomeの上部(最大容量に近いところ)を使い続ける必要があると考えられます。
つまり肺の使用可能容量の半分も満たない時点ですぐに息を吸うケースが多いと考えられます。

一方、オペラ歌手から比べるとかなり声量には融通が利く(小さな声で歌う事が許される)ポピュラー歌手は呼吸においても最大容量まで使わない可能性が高いと考えられます。

続き→歌唱に最適な呼吸法とは?

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop

RECOMMEND
関連動画

ボイトレ・メニューの取説 (1) ネイネイ・エクササイズ

ハリウッド式ボイストレーニングの王道トレーニングの1つ。ネイネイエクササイズについて。
喉頭を持ち上げた状態で発声を行う仕組みや恩恵。そこから発展型のトレーニングについてを解説します。

WATCH MORE

過緊張な発声状態を解決します。

発声において、特に高音域の発声で最も邪魔な物で出来るだけ早急に取り除きたいモノです。過緊張発声(Hyper Tension)、つまり声を出すのが苦しい状態からの解除方法を徹底解説します。

WATCH MORE

高い音域が連続する事を想定したボイトレ・メニューを解説!

課題曲とエクササイズの難易度を合わせる事は非常に大事です。ここでは高い音域が連続する事を想定したトレーニング・メニューを提案します!

WATCH MORE

自分の声が高いタイプなのか?低いタイプなのか? 見分ける方法を解説します!

知識解説の動画になります。自分の声がどのようなタイプなのか?把握しておくとボイストレーニングの観点的に非常に有用な情報となります。

WATCH MORE

歌うと喉の緊張をすごく感じる。リラックス方法を知りたい

歌うと喉の疲労が激しいわりに、大きな声が出しにくいというクライアント様に過緊張とは何か?改善は何か?を解説していきます

WATCH MORE

トレーニングで習得したミックスボイスを実際の曲で使えるようにしたい!

ボイストレーニングに通って高い声も力強い声も身についてきた。では実際の曲でそれをより有効に使う方法を知りたいクライアント様のケースを解説します。

WATCH MORE
レッスンを予約する