前回のお話しで声帯に掛かるストレスは靱帯と筋肉の両側に加わる事まで解説しました。
では基本周波数(ピッチ)を発声するために声帯ではどのような事が行われているのでしょうか?
声帯は弦とバネの特性を持つ
声帯は弦の特性を持つと言われてきましたが、声帯の振動をモデリングする際、バネの特性も理解する必要があります。
剛性(かたさ)が強ければ音程は高くなる。
質量が多ければ音程は低くなる。 重いと振動が遅くなると言う事です。
これは理解しやすいですね
声帯の弦の特性で基本周波数(ピッチ)を考えると
長さが長ければ、音程は低くなる。長い声帯の男声は音程が低いと言う事ですね。
ストレスが高ければ音程は高くなる。
密度が高ければ音程は低くなる。
注意ポイントは長さ(L)×2になっている事です。長さと言うのは音程に非常に大きな影響を及ぼします。
それを超えるストレスを声帯に加える必要があるため、高音発声時には声帯に与える緊張は非常に高い必要があると言う事です。
声帯の物理的な変化と音程の変化を整理しましょう
声帯は2つのグループに分ける事が出来ます。
カバー(上皮+靱帯)
ストレスは受動的で主に輪状甲状筋から受けると考えられる。靱帯は自ら縮む事が出来ないため。
ボディ(甲状披裂筋)
甲状披裂筋は声帯内部に走る筋肉で自ら縮む事が出来る。従って自らストレスを声帯に加える事が出来る。
ではカバー(上皮+靱帯)が輪状甲状筋と甲状披裂からどのように影響を受けるのか見てみましょう。
この図は声帯のカバー(上皮+靱帯)のみを振動帯とした場合のモデルです。
勘の良い方はピンと来たかと思いますが、カバーのみを振動させる発声は、頭声や裏声と分類されるものです。
80HzでE2程度ですので、かなり低いエリアでのモデルになっています。
実環境とはだいぶ異なるのが残念ですが、仕組みを理解するのには充分だと思います。
輪状甲状筋が活動が強くなれば、周波数は上がりますので音程は上がります。
ではこちらの図を観て観ましょう。
80Hzのところにラインを引きました。
甲状披裂筋の動きが0.4の時、輪状甲状筋は0.25程度の力で済みます。
甲状披裂筋の動きが0.8の時、輪状甲状筋は0.35程度の力が必要になります。
言い方を変えると輪状甲状筋が働けばピッチは上がる。甲状披裂筋が働くとピッチは下がる。
つまり声帯のカバーのみを振動させる裏声発声の時は、輪状甲状筋に力を入れ、なるべく甲状披裂はリラックスさせる必要があります。
なぜ?
ではなぜこの現象が起きるのでしょうか。
カバー(上皮+靱帯)
ストレスは受動的で主に輪状甲状筋から受けると考えられる。靱帯は自ら縮む事が出来ないため。
カバーは筋肉とは異なるため自ら縮んでストレスを作る事は出来ません。
輪状甲状筋からストレスを受ける必要があります。
輪状甲状筋で引っ張ってストレスを加えてカバーに張りがある状態を作ったとしても
甲状披裂筋は輪状甲状筋と逆の動きで声帯を縮める動きをするためカバーを緩めてしまいます。(カバーへのストレスを減らしてしまいます)
この事をボイストレーニングに応用する場合
地声の練習と切り分ける
裏声や頭声発声のトレーニングの場合、甲状披裂筋が活発な地声発声の低い音程から徐々に上がるよりも、裏声だけを高い音域でポンと当てるような訓練が有効かもしれません。
裏声が甲状披裂筋の働きをなるべく受けないようにするためです。
高い音程からの下降系の音階を使う
低い音程からの上昇よりも、高い音程からの下降系の音階を使うと頭声のトレーニングを効果的に行える可能性が高いかもしれません。
地声から頭声(裏声)の練習と、頭声から地声の練習を均等に行う
現代の地声系の楽曲を歌う際に地声から頭声(裏声)への切り替えは練習しても、頭声から地声への切り替えをスムーズにする練習をする方の方が少ないと思います。
どちらも同等にトレーニングを行う事により、劇的に音域を伸ばす事が出来るかもしれません。
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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