地声の時、音程はどうやって作ってるの?

前回の話しでは裏声で靱帯の層を振動させて音程を作る方法を解説しました。
今回は地声の発声時にどのように音程を作っているのかを解説します。

前回のおさらいとして音程を作る際、声帯は弦とバネの特性を持つことを確認しましょう。

声帯のバネの特性で基本周波数(ピッチ)を考えると、、、
剛性(かたさ)が強ければ音程は高くなる。
質量が高ければ音程は低くなる。

声帯の弦の特性で基本周波数(ピッチ)を考えると、、、
長さが短ければ音程は低くなる。長い声帯の男声は音程が低いと言う事ですね。
ストレスがストレスが高ければ高くなる。
密度が高ければ弾くなる。

声帯の特性について詳しくは前回のブログをご覧下さい。

ここから地声の音程生成のお話し

地声と裏声の発声を考えるのにあたり、声帯を2つのグループに分けます。
カバー(上皮+靱帯)
ストレスは受動的で主に輪状甲状筋から受けると考えられる。靱帯は自ら縮む事が出来ないため。
カバーのみの発声は裏声に使われる。

ボディ(甲状披裂筋)
甲状披裂筋は声帯内部に走る筋肉で自ら縮む事が出来る。従って自らストレスを声帯に加える事が出来る。
カバー+ボディの発声は地声に使われる。

今回はボディも基本周波数(ピッチ)生成に大きな関与があるので、もう少し詳しく書くと
1 甲状披裂筋(TA)が働くと、甲状披裂筋は短くなり剛性は強くなる(硬くなる)=音程が高くなる
2 甲状披裂筋(TA)が働くと、筋繊維が硬くなると短くならず硬くなる(アイソメトリック)=音程が高くなる

このボディの剛性と呼気圧により、声帯のどの深さまで振動するのか決まるそうです。

では今回はカバー+ボディのモデルを観てみます。
カバー+ボディのモデルは「地声の発声時」のものと考えましょう。

左側がカバー(上皮+靱帯)のTAとCTの活動による基本周波数(ピッチ)の変化
右側がカバー(上皮+靱帯)+ボディ(甲状披裂筋)のTAとCTの活動による基本周波数(ピッチ)の変化

カバ+ボディの方が圧倒的に複雑な筋バランスの変化が起きるのが分かりますね。
靱帯とは異なり、甲状披裂筋は自ら筋肉を硬したり、短くしたり出来るので、輪状甲状筋(CT)と綱引きのような関係が出来るからです。

地声発声は様々な筋バランスで行われる


例えばこの図のように、
300Hz(D4程度の高さ)を発声する場合でもTAが50%の力を出す時にはCTは22%程度の力を使います。
TAが70%の力を出す時にはCTは50%程度。
このように同じ音程でも様々な筋バランスで発声する事が出来ます。

同じ音程を出すにしてもCTとTAの筋バランスは個体によってバラつきが生じる事は簡単に予想出来ます。
この個体差と言うのは「個性と呼べる範囲の物」と「技術的に不完全と考えられるもの」両方とも含まれていると思います。
技術的な歌唱のトレーニングでは「技術的に不完全と考えられるもの」を「個性と呼べる範囲の物」に収める事が重要だと考えます。

また同じ歌手が同じ音程を歌ったとしても、「メロディが上昇か下降か?」「一瞬触る音か、連続した音か」等の諸々の要因により、微妙に(もしくはかなり)筋バランスが異なる可能性があるとも考えられます。
下項系のメロディの場合は、声帯を伸ばす輪状甲状筋の強い活動を徐々に緩めるので、同じ音程でも輪状甲状筋の活動が上昇よりも強い可能性が考えられます。
仮説ではありますが、、、。

同じ音程でも声の大きさで筋肉の活動は変化する


こちらの図は同じ300Hzで「大きな声」と「小さな声」での筋肉の活動をモデリングしたものです。
点線が大きな声。実線が小さな声です。

赤線は「小さな声の時、輪状甲状筋の活動を50%とした時、甲状披裂筋の活動は70%必要。」
青線は「大きな声の時、輪状甲状筋の活動を50%とした時、甲状披裂筋の活動は36~38%必要」

実は小さな声の時の方が甲状披裂の活動が大きいのがわかります。(これは感覚的に意外でした。)

これが起こる理由は、、、
大きな声の場合、声帯の振幅が大きくなります。従って甲状披裂筋の深部(声帯の奥)まで振動帯として使われます。
ですので、大きな声の発声時に甲状披裂筋の影響はピッチ生成において大きな影響を与えます。
それにより、大きな声の時は甲状披裂筋はごくわずかに働くだけで良いのです。

・・・と考えると、小さな地声で高い音域を歌う時、構造上有利な輪状甲状筋に対して甲状披裂筋は非常に強い力を発揮する必要があります。
このアンドレア・ボッチェッリのThe PrayerはB♭4の音程を地声でpで(ピアノ・優しく声で)発声する事がどれだけ難しい事か想像出来ると思います。

輪状甲状筋がなぜ甲状披裂筋に対して構造上有利かはこちらをご覧下さい。

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop

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