松浦航大「フィラメント」徹底解析 第一弾

今回ご本人からのOKもいただきましたので、松浦航大くんの解析動画を作りました。1人26役モノマネをして進めていく楽曲とのことです。「人の孤独に寄り添う曲」ということで楽曲の素晴らしさはもちろんのこと、技術の素晴らしさにも注目していきます。モノマネで色々な技術を投入しているので、それを解析していくことで彼がやっていることに少しでも近づけるのではないかと思います。今回はわかりやすくテンプレートを作りましたので、それをもとに解析・説明していこうと思います。

テンプレートの詳細

・喉頭の位置

喉頭の位置によって人間の声色をコントロールすることができます。喉頭の位置を高くすることでちょっとキーンとしたような音色、鋭さが出る。喉頭の位置を下げることで深いような音色、ぼやっとしたような音色になる。 声優さんがキャラクターの声を作るときにも主に喉頭の位置・共鳴腔をコントロールしていることが多いです。 声色は喉頭の位置によって変わるということがわかってもらえればいいと思います。

・顎の開き方

発音・声色に関与してきます。ア母音を使って顎を縦にオープン・クローズさせながら声を出してみると、同じア母音でも違いがわかるかと思います。 このように顎の開きが大きいということは顎をオープンさせている状態です。

・唇の開き方

同じくア母音で唇をあまり横に開けない状態から横に開いてみるとトーンが明るくなりますね。 唇の開き方も声色に関与しているということがわかるかと思います。

・軟口蓋の位置

軟口蓋が下がりきると舌とくっついてしまい、口に音が来なくなり結果的に鼻に全部入ってしまいます。なので軟口蓋の位置が低すぎると鼻声になります。 軟口蓋の位置によっても声色が変わるということがわかるかと思います。

・鼻声母音

鼻にかけて歌うシンガータイプは鼻声母音を使うことがあります。

・母音のとらえ方

[æ]→日本語の「ア」と「エ」の間のような発音。喉は比較的高く、口は横に大きく開き、顎は開く。

[a]→平均的な通常の日本語のア母音に近い音。

[ʌ]→日本語の「ア」と「オ」の間のような発音。喉の位置は若干下がり深めの音。

・声門閉鎖

強いか弱いか・鋭いか鋭くないか(息っぽいか)

平均的な声門閉鎖に対して強い場合は鋭いような音になり、弱い場合は少し柔らかくなり息が漏れ始めシャーという音になる。

あえて声門閉鎖を弱めるアーティストもたくさんいらっしゃいますね。なので声門閉鎖も重要となってきます。

・息の混ぜ方

声門閉鎖をコントロールした結果、息の混ざり具合はどうなのか。 声門閉鎖が弱ければ息が漏れ出します。あえて強く息を吐き、シャーという音をのせる場合もあります。

Mr.Children 桜井和寿さんの声の分析

・喉頭の位置→高い

・顎の開き方→大きい

・唇の開き方→横に広い

・軟口蓋の位置→低い

・鼻声母音→使わず

・母音のとらえ方→ [æ]

・声門閉鎖→強い

・息の混ぜ方→中間

全体的に明るいトーン。

ア母音を注目して聴くと音色がわかりやすいかもしれません。 歌い始めの「わけもなく」の「わ」の母音を聞き分けられますね。 喉を上げること、母音を[æ]と捉えることによってこのようになっていると考えられます。 歌い方の特徴にも注目してみましょう。 桜井さんの歌い方は人の心に真っ直ぐ刺さるような割とストレートなイメージがありますね。 フレーズもあまり掻き回していませんね。 Aspirationといって、フレーズのお尻で息を漏らすような歌い方をしてエモーショナルさを演出されているのかと思います。 「息ぐるぅ(Glottal)しくてあー(Glottal)けた(Vibrato)(Aspirate)(Fry)窓ガラ(Breathy)ス(無声化)」 「息ぐるしくてあけた」ではGlottal attackといい、声帯を強めに閉じてから息を当て、そこから声帯を動かしアタックをつける手法を使っていますね。 「あけた」の「た」ではAspirationで終わっていますね。 「窓ガラス」の入りをFry(ボーカルフライ)を使って一回引っ掛けてから歌っていますね。 その後、桜井さんの色っぽさを演出するためエアリーに終わらせるような技を使っていますね。さすがです!!

浦島太郎(桐谷健太)さんの声の分析

・喉頭の位置→低い

・顎の開き方→大きい

・唇の開き方→狭い

・軟口蓋の位置→高い

・鼻声母音→使わず

・母音のとらえ方→[ʌ]

・声門閉鎖→中間と弱いの間

・息の混ぜ方→多い

桐谷さんの歌い方はわりと真っ直ぐ目で、深め柔らかめ、少しスモーキーともいえる膜のかかったような音色が特徴的かなと思います。 全体的に声色は暗め・太めを作るようにしているように伺えます。顎の開きを大きくしているので、そこで明るくなる要素を取り入れているのではないかと思います。 歌っている時の発音中の息漏れが多いので、それでハスキーさを作っているように思います。 歌唱パートの特徴を見ていきましょう。 「風に震えながら」の「え」だけ唯一しゃくっていますね。 語尾では先ほど説明したAspirationを使っていますね。息を漏らしています。ワイルドさを演出しているのかもしれませんね。 「行き場ない気持ち」の「ち」では「chi」→「Eh」のように母音を移動させながら息を漏らしています。これで力強さを演出しているのではないかと予想できます。 「気付かされたー」の「されたー」のアクセントの付け方は、さすがミュージシャンですね。三連符を下からしゃくり上げながらアクセントをつけています。このアクセントの付け方は常套手段になるかと思います。そして「た」のア母音は[ʌ]の「ア」と「オ」の間を狙い桜井さんの歌い方と違いを出しているように感じます。

藤井風さんの声の分析

・喉頭の位置→真ん中

・顎の開き方→中間

・唇の開き方→縦に広い

・軟口蓋の位置→高い

・鼻声母音→使わず

・母音のとらえ方→[a]

・声門閉鎖→中間

・息の混ぜ方→中間

過度に深くもしていないし、過度に細くもしていなく、今までの登場人物からするとおそらく最も平均的な歌い方をしているように感じます。 歌い方の特徴をしっかりとらえていますね。 「なみだ」の「み」をイ母音とエ母音の間をとらえていますね。 「かれたけど」を「かーれったけっどー」という風に音を切ってリズムを演出し、藤井さんの特徴をとらえているように感じます。 「寂しくてよかった」はとてもレガートに歌われていますね。 この「よかった」の「か」はファルセットにして「た」は2note trill downという手法を使い藤井さんがやりそうなフレージングを演出されていますね。 この柔軟性・俊敏性は一級品ですね!とても素晴らしいと思います!!

槇原敬之さんの声の分析

・喉頭の位置→真ん中

・顎の開き方→中間

・唇の開き方→狭い

・軟口蓋の位置→高い

・鼻声母音→使わず

・母音のとらえ方→ [ʌ]

・声門閉鎖→中間

・息の混ぜ方→中間

喉の位置は真ん中目にいてニュートラルなサウンドをしているかと思います。 槇原さんの声は、その人が生まれ持った「天然のピュアな声」のような認識が私自身にあります。 唇の開き方や母音のとらえ方は丸めにしているようなイメージですね。 声門閉鎖もほどよく閉じていて、息混ざりな声で歌っておらず、とてもバランスの良い声に聞こえます。 航大くんはこのフレーズを息継ぎなしで歌われていますね。槇原さんの歌い方のレガートさをしっかり再現されていますね。 「君の孤独のそばにいられるから」 「そば」の「そ」のオ母音は非常に丸くとらえていますね。Rounded Vowelとも言いますがまさに巻いているような円形の母音で丸い音がしますよね。 「いられるから」の「ら」のア母音[ʌ]も同じくRounded Vowelを狙っていますね。 そして母音を非常に長く歌っていますね。航大くんの槇原さんに対しての認識が超レガートというイメージなのではないでしょうか。 ほとんどビブラートとして認識されないくらい小さいですが、大きめに揺すって歌われていますね。そして口は基本、縦口で操作しているように思えます。

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop

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