- 2022.06.20
- 歌手のための音声学
松浦航大くんがまだ若き日に何度かレッスンを受けてくれていたのでカルテを探したところ、Great Dramatic Tenorと書いてありました。
Great:素晴らしい、Dramatic Tenor:声の低めの声種
Dramatic TenorかBaritoneで男性の中低音の声種を指していて、本当に声が豊かだという印象を受けたかと思います。
ではなぜ高い声がこんなにも出るのか、なぜこんな声色がコントロールできるのかと疑問に思うかと思いますので、器質的な大きい要因について説明していきます。
松浦航大くんの声の特徴
では彼の特徴を見ていきましょう。 彼は非常に首が長いですね。
首の長い人は声道(声帯から唇までの距離)が長くなります。
声道が短ければ短いほど軽やかで高い声を増幅するのに向いている共鳴腔になります。
それから彼は背も高く体が大きいですね。なので体が大きい分、声帯も一般より長い可能性があると考えられます。
従って声帯が長いと低い音を鳴らすのが得意な可能性があるということになります。
そして彼は首が長く咽頭の位置が上の方にあります。高い位置にある咽頭を下げることによって太い音を作ることができます。
首が長い分、咽頭を上げ高い音を出すこともできるわけですね。 桜井さんの音色を作る時は、おそらく声道を短くして表現していたのではないかと思います。
フィラメントの1番を歌われた中では喉の真ん中から上に上げる範囲内でコントロールしていたのではないかと予想できます。
そして横から見ると喉頭は大きいようですが、正面から見るとそんなに出ているようには見えませんね。
喉頭が大きいということはバイオリンでいうとコントラバスやチェロのように太い音が出るとイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。
声帯・声道の基本の法則について
声帯
声帯は長いより短い方が高い音が得意(動画では輪ゴムを使い確認)
分厚いより薄い方が高い音が得意
声道(声帯から唇までの距離)
声帯は長いより短い方が高い音が得意(動画では輪ゴムを使い確認)
分厚いより薄い方が高い音が得意
外側からはそんなに出ているように見えないということは声帯がそこまで長くないのではないかと考えられます。そして声帯自体も薄いものかもしれないと考えられます。
w-inds.の橘慶太くんも背が高く、高音も出ますが喉頭はそこまで出ていません。
ご本人に声帯の薄さを聞いたところお医者様から「声帯が薄い」と言われたことがあるとのことでした。
・・・ということはあの声の高さは声帯の薄さで作っている可能性が高いと思われます。
航大くんもそれと同じ可能性があるとも予想できます。
先ほどもお伝えした『声道は長いより短い方が高い音を鳴らしやすい、長い方が太い音を作りやすい』これを全部持っていると言えるでしょうね。
それから彼は大きな口で歌っていますね。 大きいということは小さくすることもできますね。
上手に大きさをコントロールして表現豊かな音域や音色を作っているかと思います。
狭い口はマイルドな音を作ります。 母音にもよりますが、マイルドな音色のアーティストを再現するときはそんなに口は大きく開けていないかもしれませんね。
大きい口は高い音を出す時に使ったりします。 米津玄師さんの時など大きい口をしていますね。
鋭い音や煌びやかな音を出す時にも有効です。 そして顎もとても開くようですね。
しっかり開けると声帯から唇までの距離を短くできるため、高い音を煌びやかに出すことができます。
ベース顔で口が大きな人は高い音を出せる顔の形と一般的に言われています。
したがって、彼は背が高いため、一般的な男性よりは声帯は長く薄い可能性があると予想できます。
ものまねという意味でのフィラメントという楽曲の技巧について
ものまねという意味でのフィラメントという楽曲の技巧についても見ていきましょう。
この楽曲はA♭4からA♭5を中心としたメロディとなっています。
これは男声の中音声種か高音声種のタイプでいうと、最も多くのバリエーションを出せる音域とも言えます。
この解析動画の中で母音によって声色を使い分けることができるとお話ししていますね。
歌い始めを見てみると8分音符に一文字入るようになっていますね。
そのため母音を一つずつ引き伸ばすことができ、声色を表現しやすくできます。
そして8分音符系のメロディというのはフレーズに幅があるため前後にずらすことができ遊ぶこともできます。
前後にずらしやすいということはそのアーティストが歌いそうなフレージングを作ることもできそうですね。
そして藤井風くんで歌っているBメロは16分音符系のメロディになっていますね。
前半の8分音符系のセクションでは朗々と歌うように作っておき、その後の16分音符系のセクションでは歌い方によってはpercussiveに打楽器的に歌うこともできるようになっていますね。
メロディのノリを変え、そのノリに合うアーティストを充てがうようにできているのではないかと思います。
歌を歌う・声色を真似る・作曲するということだけではなく、フレーズもそのアーティストがしそうなことまで再現するところまで考えられていて、天才が当たり前のように努力をしていて本当にすごいなと思います!!
航大くんの声から学べる事
最後に私たちが航大くんの声から学べる事について考えてみましょう。
まずはそのアーティストが歌っているア母音([æ] [a] [ʌ])のとらえ方を観察してみてください。
耳も良くなると思います。 アーティストの息の混ぜ方も観察してみてください。
声色というのは音色+息の音(科学的定義でいうと雑音)ですので、声色と雑音が混ざった時に生まれてくるマジックというのもあります。
そしてアーティストが何をしているのかという歌い方も観察してみてください。
技を組み合わせることでパズルゲームのように色々できるようなものなので、解析しマネをして、できたときに本当に習得できたと思っていただけるといいかと思います。
今回の解説は私自身が実際レッスン中に回している頭だったり耳だったりもしますので、航大くんのお声をお借りして私の頭の中で何が起きているのかを見ていただけたのではないかと思います。
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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