喉頭原音ってどんな仕組みで「声」に変わるの?

前回のブログ「裏声 / 地声発声時の喉頭原音を音響解析」では声帯の圧着/閉鎖により作られる喉頭原音の倍音の特性が変わると言うお話を中心にしました。

今回は声帯で作られた音がどのように加工されていくのかお話しをします。

声の加工が声の音色クオリティの多くを決める

声帯で作られた音そのものは言葉も持ちませんし、個体差(個性)もほとんどないと言われています。
ただブザーのような「ブー」であったり「ビー」であったり、高さによって若干の聞こえ方に差はありますが、この時点では個性もなにもありません。

よく例えられるのが、声帯はギターで言うと弦の役割。
音色を決めるのは、ギターのボディの役割と言われています。
このボディの役割をするのが、声の世界においては声道(Vocal Tract)と呼ばれます。
この声道により、個体毎の声の音色を決定づけ、母音や子音と言った言葉を生成します。


この図で言うと赤い空間が声道にあたります。
観ての通り声道は声帯から唇までの空間ほぼ全てを指します。

余談ですが・・・鼻腔は共鳴腔なの?

鼻腔も声道の一部ですが、鼻腔で作られた共鳴はほとんど体外に放射されないため、(つまり外に聞こえないため)一部の鼻声母音、鼻声子音を除いてあまり共鳴腔としての役割は果たしていないそうです。
ただし、声出している時の体感として鼻腔に響いているように感じる事はあります。
音声学の世界ではPerception(知覚)と言う言葉を良く使います。
音や視覚は、実際の物理現象と異なる事を知覚する事が多いと言う特徴があります。
歌う時に感じる「鼻腔共鳴」は知覚的な物であり、実際の物理現象ではないと考えられます。

ちなみに歌唱時は会話時と比べて母音を伸ばす時間が圧倒的に長くなりますので、日本語、英語には美声母音は存在しない事を考えると鼻声子音の発音を除いては、鼻腔共鳴は歌唱においてあまり役に立たない可能性が高いと考えられます。

「声の音色を決定づける」ってどういう事?

では、まずこの図を観てみましょう。

左側の声道の図が上段から「あ」「い」「う」の母音を発音している時の形状。
右側は、各声道の形状が持つ共鳴特性による周波数の増幅を表します。(縦軸LOUDNESSが音量。横軸FREQUENCYが周波数。)

つまり、声帯で作られた喉頭原音が音声として完成するプロセスは、
倍音を含む喉頭原音 → 声道の形状が持つ共鳴特性 → 音声
となり、これを音声学の理論ではソース・フィルター理論と呼ばれています。

ソース・フィルタ理論とは?

この図なんてもっとわかりやすいと思います。

右上段から声道の形状
右下段に喉頭原音
真ん中に声道の持つ周波数特性
左に出力された声の周波数特性
となります。

図で観て分かる通り、「喉頭原音は基本周波数(≒音程)から高次倍音に向かって徐々に下がる」と言うとても単純な形をしているのに対し(楽器の多くはこのような周波数特性を持ちます)音声として出力された周波数特性はとても複雑な形状としている事がわかります。
この「複雑性」が、声の個体差(個性)の認識を容易としますし、楽器では表現不可能な「言語の生成」を可能とするのです。

ソース・フィルタ理論には限界がある?

声帯で作られた音 → 声道の周波数特性 → 音声
このようにシンプルに音声を考えるのに、ソース・フィルタ理論はとても便利なのですが実際には、もっと複雑な事が音声の生成には起こっています。
実際には隣接する倍音同士が干渉、増幅(及び打ち消し)しあっている事。
周波数特性の山の様に見えるのをフォルマントと呼びますが、このフォルマント同士の周波数が近い場合も干渉、増幅していると言われています。

ですので実は、音声・音響学の基本となるソース・フィルタ理論だけで声の事はもちろん、歌の事を説明するのには限界があるのです。
しかしながら、基本を理解するためには十分価値はあります・・・・!

いかがでしたか?
今日は声道の役割の基本のお話しをしました。
次回以降少しずつこのお話しを掘り下げて、歌唱にどのように役立つのか書いて行こうと思います。

今日のおまけに各母音の舌の位置、顎の開きを図にした物を載せておきます。

※左側から「い え あ お う」

次の記事 最強の共鳴メソッド?母音を科学的に解説!

この記事を書いた人

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター

アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。

所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop

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