高音発声に憧れてボイストレーニングを始める方はとても多いのは、もうご存知の事だと思います。
高音の音域拡大するためには、
技術の向上
→声帯や共鳴腔をどのようにコントロールするか?
身体能力の向上
→筋肉がどの程度、発達しているか?、またその筋肉を十分に使えているか?
この2点がとても重要な要素になります。
ただ身体能力の向上の1つに「声帯靭帯の硬化」と言うのを聞いた事はないと思います。
今日は声帯靭帯が高音に及ぼす恩恵と、それ以外の高音発声に不可欠な要素についてお話してみようと思います。
声帯靱帯が高音発声に重要な理由
ユタ大学の音声学者、そして音声学者のバイブルともいえる「音声生成の科学―発声とその障害(多分、音声外来の医師、音声学者で読んだ事のない方はいないと思います。)」の著者 Ingo Titze氏の話です。
「声帯の靱帯の硬さが、声の高さに強く影響を及ぼす」と言うことを直接伺う事が出来ました。
靱帯を含む声帯の構造についてはこちら
具体的には、猿の「キー!!」と言う鳴き声は靱帯の硬さによって繰り出されているものだそうです。
また、鹿は種類によって高い鳴き声の種別。
低い鳴き声の種別がいるそう。
ほとんど同じ長さの声帯で比べてみるとある種類の鹿は靱帯が硬い。ある種類の鹿は靱帯が柔らかい。
と言うのがわかったそうです。
これによって2オクターブ以上の音程差があったそうです。
Ingo氏の説明では声帯靱帯の硬い動物の順に・・・
・猿
・人
・ヘラジカ
・ネズミ
だそうです。
声帯靭帯を硬くする事は可能なのか?
こちらもIngo.Tizse氏いわく、声帯のストレッチ運動を繰りかえす事によって、この声帯靭帯の硬化は可能だそうです。
声帯のストレッチ運動は、高音〜低音の下降〜上昇をする事です。
ただし、声帯靭帯の硬化は反復トレーニングを行う事、それを長期的に行う事が重要になると考えられますので、短時間の練習でも日々の日課にする事が非常に重要です。
その他、高音発声に必要な要因って?
輪状甲状筋の発達度合い(身体的要因)
声帯をストレッチするいわば高音生成筋なので、この筋肉が発達しているほど、高い音が出しやすいです。
甲状披裂筋との輪状甲状筋(声帯のストレッチ / 音程の生成)のバランス感覚(技術的要因)
輪状甲状筋と甲状披裂筋は逆の方向に向かう筋肉。
声帯を引き伸ばす→輪状甲状筋の役割。
輪状甲状筋は声帯のストレッチ。音程の生成を担います。
声帯を縮める→甲状披裂筋の役割。
甲状披裂筋は声帯を縮めるアクション。地声の生成を担います。
高い音になればなるほど、「輪状甲状筋を強く」「甲状披裂筋を弱める」
低い音になればなるほど、「甲状披裂筋を強く」「輪状甲状筋を弱める」
これらのアクションを音程変化とともにリアルタイムに行うバランスの感覚が重要になります。
これが出来ないと
「突然ひっくり返る」
「怒鳴り上げる」
「苦しい」
と言う事が起こりやすくなります。
以前にVTのブログに甲状披裂筋/輪状甲状筋の役割をシンプルに書いたのでこちらもどぞ!
中には訓練出来ない要素もあります
元々の声帯の長さ
声帯は短いほど高い音が出しやすい。
男女による音程の差はここが大きいですね。
元々の声帯の厚さ
声帯は薄い方ほど高い音が出しやすいです。
これも「質量が軽い方が速く動ける」
声帯の振動速度=音程の高さ、となります。
元々の声道の長さ
声道とは、声帯から唇までの距離。
管楽器で言えば管の長さで、
例えば長い菅を持つバリトンサックスは「低音の限界が低く、低音が良く響く」と言う特性を持っており、
短い管を持つソプラノサックスは「高音の限界が高く、高音が良く響く」と言う特徴を持っています。
人間の声道の長さは
男性の平均で16.9 cm
女性の平均で14.1 cmだそうです。
今日の研究では、
1 声帯で作られる原音と
2 声道の長さ
この2つの組み合わせで人間の発声可能音域は決まるとされています。
これらの要因で生まれたのが声種と言う考え方で、僕の偉大なる先生の一人、セス・リッグス氏は著書で各声種の平均音域をこのようにまとめていました。
ビックリするくらい広い音域を示しているように見えますが、発声練習音域としては十分可能な音域と見てよいと思います。
実際の曲での歌唱音域は慎重に見極める必要がありますが、、、、。
終わりに
今回は身体的要因から考えた発声の音域的な限界について考えてみました。
この記事を読んで「あ〜音域ってやっぱり限界があるのね〜」って思ってしまう方も多いかもしれませんが、
桜田ヒロキのレッスンに最初に来る方のほとんどは「生理的なギリギリの音域までトレーニングする」と言うアイデアを持っていません。
なので、僕がガンガン高い音域まで発声練習をさせるとビックリする方が多いのも事実です。
要は歌唱音域(実際の曲で使う音域)のみを練習して、生理的音域(綺麗に出ても出なくても良いいわば「ただ出る音域」)を引き伸ばす事をやっていない事が多いわけです。
だから僕からは
「今まで高音を出した事がない方でも、年齢とともに高音が失われてしまった方でも、ほとんどの方がまだ高音は伸びる余地はあると考えて良いのですよ!」
と言いたいわけです。
そしてセスが著書に書いた声種ごとの音域の図を見ると、
「バリトンであってもハイBまで歌えるようにありなさい。
アルトであってもソプラノ・ハイCまで歌えるようにありなさい。」
このメッセージを強く感じるわけです。
音域はまだまだ伸びる!
そう思って練習を続けてくださいね!
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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