歌を歌うのに超重要な筋肉、
甲状披裂筋(TA)と輪状甲状筋(CT)をはじめとする喉頭の運動を動画で解説している動画を見つけました。
詳しい解説をつけてお話をしていこうと思います。
動画を観ながら解説します
● Thyroid muscle(甲状舌骨筋)
– 筋肉のアクションについて
喉頭を引き上げる
舌骨を引き下げる
(0:08 ~ 0:20)
● Crycothyroid muscle(輪状甲状筋)
– 声帯に張りを作る
(0:20 ~ 0:35)
※輪状甲状筋は速筋と遅筋がおよそ半分ずつと言われています。
● Thyro-arytenoid muscle (甲状披裂筋)
Vocal Muscle(声帯筋)
– 収縮筋として機能
(0:35 ~ 0:45)
※甲状披裂筋は速筋優勢と言われています。
● Internal thyro-arytenoid(内側甲状披裂筋)
Vocal Muscle(声帯筋)
– 収縮筋として機能
(0:47 ~ 0:54)
● Ary-epiglottic Muscle (披裂喉頭蓋筋)
– 喉頭蓋(こうとうがい)を閉じる
(1:03 ~ 1:30)
● Posterior Crico-arytenoid(後輪状披裂筋)
● Arytenoid Muscle (横被裂筋)
● Leteral Crico-arytenoid (外側輪状披裂筋)
– 後輪状披裂筋が声帯を開く
– 横被裂筋が声帯を閉じる
– 外側輪状披裂筋は収縮筋として機能
(1:57 ~ 2:13)
※後輪状披裂筋は遅筋優勢と言われています。
参考 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15676055/
Crycothyroid muscle(輪状甲状筋)の役割
・輪状軟骨を甲状軟骨側に寄せ、喉頭の内側にある声帯を引っ張る
・声帯を引っ張る事により、声帯に張りを作る
・声帯を引っ張る。緩めるアクションをして、音程を作る
・高音域発声時に最優勢となる
音程を広く使う、歌唱においては超重要な筋肉とされています。
この筋肉が脆弱であると起こる弊害は・・・・
・音程が悪い
・高音が出ない
となります。
この点にいち早く着眼した
ボイストレーナーは弓場徹先生がとても有名ですね。
また、ボイスケアサロンの會田茂樹先生は
「高音発声が出来る人ほどこの筋腹はプリプリと発達している」
と言っていました。
と言ってもほとんどの人は触診でこの筋肉を検知するのは不可能なようですが・・・。
ちなみに歌手は高音に向かってドンドン輪状甲状筋に力を入れている訳ではなく、
ある程度の高音になると輪状甲状筋の働きにより輪状軟骨と甲状軟骨最も近くなり、輪状甲状筋だけではそれ以上の高音を出す事が出来なくなります。
一定の高さを向かえると「輪状甲状筋は伸縮した状態で固定される。」
さらなる高音になると「輪状甲状筋は伸縮した状態で固定された状態で、声帯、もしくは周辺の筋肉を硬化させる。」そうです。
硬化させる部位は細かくは特定されていないそうですが、非常に興味深い情報ですね。
2023年4月に桜田ヒロキが英VOICE CARE CENTREでの触診技術の修得後、甲状軟骨の傾きを観察すると…
動画を観ると、輪状甲状筋が甲状軟骨が傾けて、声帯が引っ張られています。
この「傾き加減」を観察すると非常に興味深く、、
人によってはこの動画よりもかなり前傾に傾く方がいます。
様子としては、甲状軟骨の後方を上に引き上げる茎突舌骨筋の補助があるのかもしれないと感じました。
また、「甲状軟骨が、あまり傾いていないタイプの方」も少なくありません。
そして驚く事に聴感上、両者の声色はそれほど大きく変わりませんでした。
これを輪状甲状関節を外圧で動かす手技(桜田は取得済みです)を使って関節の可動域を拡げるなどを行っています。
効果が今後どのように出ていくのか楽しみです。
Thyro-arytenoid muscle (甲状披裂筋)の役割
・声帯を縮め、分厚くする
・輪状甲状筋の拮抗筋として声帯に張りを作る
声帯筋と合わせ縮む事により、自らを振動体にするため張りを作ります。
それにより、地声を作るのに重要な筋肉とされています。
これが脆弱である、もしくは上手に使えないと起こる弊害は・・・
・地声が出ない、もしくは息っぽい
・高音域に向けて徐々に緩める事が出来れば地声になるが、突然緩むと、「地声→裏声」といわゆるひっくり返り状態になる。
ちなみに「甲状披裂筋は裏声の時には使われていない」が定説でしたが、
カリフォルニアの研究者が筋電計を用いて調査したところ、裏声の時にも甲状披裂筋は使われている事が分かっています。
筋電計は筋肉に微細な電気を流し、どの筋肉が働いているのかを調査をするための機材です。
甲状舌骨筋の役割
・舌骨を他筋肉で固定すると喉頭を引き上げる
・喉頭を他筋肉で固定すると舌骨を引き下げる
とても興味深いのが、他筋肉との連動により、
・喉頭を引き上げる
・舌骨を引き下げる
違った働きをする事です。
特に喉頭はどこかに固定されている組織ではないので、このような事が起こりやすい部位なのかもしれませね。
歌唱においては甲状舌骨筋は喉頭を上げる事により、声道を短くし、音色を明るい・細い・鋭くする事が考えられそうです。
なお、この動きに拮抗する、つまり喉頭を下方に下げる筋肉は、胸骨甲状筋、肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋などが挙げられます。
喉頭が下がると声道は逆に長くなるため、音色を暗い・太い・丸くする事が出来そうです。
歌唱においてはキアロ・スクーロ(Chiaroscuro)と呼び、明るい音、暗い音が同時に鳴る事を指します。
喉頭を上げる事により、(キアロ)明るい音色の訓練が出来、
喉頭を下げる事により、(スクーロ)暗い音色の訓練が出来ます。
歌手はどの時代も「太くて明るい声」を好んだと言う事なのかもしれませんね。
筋肉は代償(compensation)が出来る
ここで挙げた筋肉の役割はあくまで「上手に使えた場合」に限ります。
何を言っているのかと言うと、
体のメカニズム上、何かの筋肉が上手に動かない場合、
他の筋肉で補填しようとします。
例えば腕で何かを持ち上げようとした時に、腕の力が足りない場合、背中や腰、足と言った別の所から力を借りる事が出来ます。
腕などの場合、これはとても良いメカニズムかもしれませんが、声においてはあまり上手くいかない事が多いようです。
声で起こる代償例とは・・・
・ピッチをとるために優先的に甲状披裂筋を使う
→甲状披裂筋を硬直させれば音程は取れるそうです。
くわしくはこちらのブログをご覧下さい。
地声内でのピッチ生成は輪状甲状筋と甲状披裂筋の絶妙なバランスで作られています。
甲状披裂筋を極端に優性に使うピッチ生成は過緊張発声に繋がると考えられます。
・声帯を閉じるために喉頭全体を持ち上げる
→喉頭を持ち上げるハイラリンクス状態を作ります。
これにより声道が緊張により細くなるため、声門閉鎖の補助になる可能性があります。
ハリウッド式ボイストレーニングでは一時的に使う事もあります。
・声帯を閉じるため胸鎖乳突筋に力を入れる
→胸鎖乳突筋は首を動かす筋肉で、比較的大きな筋肉です。
そのため力が強く声帯を閉じるのにも使える可能性はありますが、かなり非効率的な筋運動と言えます。
どうですか?
どれか思い当たる事はありませんでしたか?
「胸鎖乳突筋は首を動かす筋肉だから発声には関係ないよ!」
とおっしゃる方もいますが、ボイストレーナーの視点で見ると
「間違った筋肉を使ってしまうのは技術不足、もしくは脳からの命令が誤った筋肉に言ってしまってる。筋肉の使用用途をきちんと整理してあげる事がボイストレーナーの仕事」
このように考えられます。
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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